財務省の発表により、2022年度の貿易赤字が過去最大の21兆7284億円となったことが分かりました。
円安と資源高で輸入が膨らんだ結果です。
円安は輸出を押し上げる効果があるものの、かつてのような伸びはありません。
新型コロナウイルス禍で部材の供給が滞り、経済回復による海外需要を取り込みきれませんでした。
詳しく解説していきます。
2022年度の貿易赤字が過去最大の21兆7284億円
2022年の輸出、輸入とも金額は過去最大に達しました。
輸出は2021年度比で15.5%増の99兆2264億円、輸入は32.2%増の120兆9549億円でした。
貿易収支は輸出額から輸入額を差し引いたもので、2年連続の赤字です。
比較可能な1979年度以降で最大の赤字額です。
輸入が過去最大となった主因
輸入が最大となった主因は円安と化石燃料の高騰です。
円の対ドル相場が2021年度平均の1ドル=111円91銭から、2022年度は135円05銭と大幅な円安に振れました。
原油は数量ベースは6.8%増えたのに対し、金額ベースは70.8%増の13兆6932億円。円ベースの単価は1キロリットルあたり8万7195円で59.9%上昇しました。
ドルベースの単価は1バレルあたり102ドル65セントで32.5%上がりました。
液化天然ガス(LNG)の輸入数量は1.3%減ったにもかかわらず、輸入額は77.6%増の8兆8923億円と大きく膨らみました。
石炭は数量1.9%の減少に対し、金額は2.4倍の8兆5805億円でした。
石油製品や液化石油ガスも含めた燃料全体でみると金額は77.0%増の35兆1924億円でした。
輸入総額に占める割合は29.1%です。
輸出の伸びは輸入の伸びに追いつかなかった
一方で、輸出は伸び悩み貿易赤字を膨らませました。
輸出は自動車が28.0%増の13兆7351億円、鉄鋼は15.1%増の4兆7629億円、半導体製造装置は13.7%増の4兆463億円となりました。
これまで円安は輸出を押し上げるとされてきました。
しかし、2022年度の輸出の伸びは輸入の伸びに追いつきませんでした。
1年間で円が対ドルで20円強も安くなったにもかかわらず、輸出が振るわなかったのはコロナ禍での供給制約の影響が大きいです。
昨春以降、中国でのロックダウン(都市封鎖)による供給網の混乱で企業の生産は滞りました。
中国向けの自動車部品は2割以上減り、半導体不足も響きました。
荷動きを示す輸出数量指数(15年=100)は世界全体向けが21年度比で3.9%下がりました。
アジア向けは7.4%、中国向けは17.8%それぞれ低下しました。
円安が貿易収支を黒字にする効果は消失している
円安でも輸出が伸びにくいのは日本の産業構造の変化も背景にあります。
2008年のリーマン・ショックを境に日本企業は生産を海外に移してきました。
経済産業省によると、2020年度時点の国内企業の海外生産比率は23.6%と11年度比で5ポイント超伸びました。
自動車などの輸送機械は4割を超える水準が続いています。
為替の変動に企業活動が影響を受けにくくなった半面、円安のプラス効果を取り込みにくくなっています。
円安になると、国内でつくったモノを海外で安く売れます。
いったんは円建てで輸入価格が上昇して貿易収支が悪化した後、しばらくすると海外で価格競争力が高まり、輸出が次第に増える「Jカーブ効果」を期待できますが、効果は乏しいです。
日本総合研究所の試算では、1%の円安が輸出数量を押し上げる効果が10年代に0.1%程度と00年代の4分の1になりました。
円安が貿易収支を黒字にする効果は今は昔です。
貿易赤字は円安を促進させる
資源高と円安基調が当面続き、貿易赤字を定着させる可能性があります。
輸入する際は円を外貨に替えて支払うため、円安を促進し、貿易赤字をさらに膨らませる可能性があるのです。
足元で国内回帰といった生産体制の見直しに動く製造業が出始めました。
米中対立による経済安全保障の意識の高まりが原因です。
しかし、人件費などのコストを考えれば国内に生産拠点を戻すのには限界があります。
日本企業は地政学リスクもにらみながら、効率的な生産を探る必要に迫られています。