防衛装備の生産や輸出を支援する防衛産業基盤強化法が2023年6月7日の参院本会議で成立しました。
直近20年で防衛分野の事業から撤退した企業は100社超に上ります。
国内に安定した開発・生産基盤がなければ有事の装備や弾薬の確保が不安定になります。
防衛装備品の供給能力は、防衛力や外交力など国力に影響します。
詳しく解説していきます。
防衛産業基盤強化法
防衛産業基盤強化法は自衛隊の任務に不可欠な装備をつくる企業を対象に製造の効率化や供給網の拡充に必要な経費を補助します。
サイバー対策の拡充や事業承継の費用も支えます。
輸出支援では海外用に仕様を変える費用を助成する基金を設けます。
一連の支援策を講じても経営難の脱却が難しい場合、国が製造施設を保有し別の企業に運営を委託します。
利益率を改善し事業撤退を抑えるのが狙いです。
日本の防衛産業の営業利益率は2~3%前後にとどまる
防衛省は契約時に企業の利益率を平均8%程度に設定し事業を発注しています。
開発中の材料費高騰や納期遅れで実績の営業利益率は2~3%前後にとどまる例が多く、赤字の場合もあります。
販路がほぼ自衛隊に限られ、少量生産に伴う収益難に直面しています。
米欧の主要な軍事関連企業の営業利益率は10%以上とされています。
日本企業は売上高に占める防衛事業の割合も低いです。
米防衛大手ロッキード・マーチンは防衛事業が9割程度ですが、国内大手の三菱重工業は1割ほどです。
防衛装備の生産者が減れば継戦能力に不安が生じる
防衛産業に関わる企業は中小を含めて裾野が広いです。
戦闘機は1100社、戦車は1300社、護衛艦は8300社です。
コマツは2019年に軽装甲機動車の開発を中止し、住友重機械工業は2021年に機関銃の生産から撤退しました。
大手の撤退傾向が続くと中小に波及します。
最新鋭機の開発力を持つ米国の日本への対外有償軍事援助(FMS)は10~19年度で10倍以上に膨らみました。
開発力や技術力の継承は困難になり防衛装備の生産者が減れば継戦能力に不安が生じます。
それによって、攻撃を思いとどまらせる抑止力も低下しかねません。
防衛装備の輸出は外交力を向上させる効果も期待できる
防衛装備の輸出は他国との軍事上の結びつきを強め、「貸し」をつくることによる外交力を向上させる効果も期待できます。
ロシアのウクライナ侵攻でインドなどがロシアに制裁を科さないのはロシアから武器を調達してきた経緯と無縁ではありません。
日本政府は4月、友好国に防衛装備を無償で提供する新制度「政府安全保障能力強化支援(OSA)」を導入しました。
与党は武器の輸出を制限する防衛装備移転三原則の運用指針を改正し、供与の対象や目的を広げる方策を協議しています。
輸出が進めば価格競争力がつく
7日に国会内で開いた会合で日本防衛装備工業会などが「輸出が進めば価格競争力がつく。政府に保証してほしい」と訴えました。
供与の目的を救難や輸送など5類型に限る指針に地雷除去や哨戒を加える要望があがり、5類型廃止の意見も出ました。
7日に成立した新法は10月1日の施行後5年をめどに運用状況を点検し法改正などを検討する規定を盛りました。
新法が他の制度とあわせ撤退抑制や輸出促進にどう寄与したか検証が欠かせません。