防衛装備品の調達を巡り、日本の契約慣行が価格高騰を助長しています。
2008~21年度の間に4つの主要国産装備品の単価が最大1.5倍になっていたことが明らかになりました。
部品の値上がりに加え、不定期の契約がコスト増を招いています。
国際情勢の緊迫で防衛費増額が議論となる中、調達の効率化は急務です。
日本の防衛装備品の価格上昇が止まらない
防衛省は国内の防衛産業維持を重視し、一部主力装備品は国内メーカーが製造しています。
各装備品の調達数と予算規模は公表していますが、詳細な単価は示していません。
同省は大幅な性能向上がなく、調達が続いている装備品の単価推移を明らかにしました。
単価上昇率が最も大きいのは川崎重工業などが製造するC2輸送機です。
1機あたりの調達価格は11年度の166億円(契約額)から21年度補正では257億円に跳ね上がっていました。
潜水艦を探知するP1哨戒機は契約初年度(08年度)の157億円から21年度補正で243億円に、10式戦車も10年度の9億円強から20年度は13億円強に上昇していました。
価格上昇の要因は少量契約を不定期に繰り返す慣行
最大の要因は少量契約を不定期に繰り返す慣行です。
国は装備品の調達目標を5年ごとの中期防衛力整備計画で定めますが、具体的な契約数は予算や従来機の退役時期、優先度を考慮して毎年度決めています。
計画通りの調達がメーカーに保証されているわけではありません。
C2は11年度が4機、その後は0~3機でばらつき、21年度は当初予算と補正で各1機。
翌年度以降は見通せず、メーカーは設備を減らせません。
数量が減れば1機分の単価は上がり、国の調達計画に響きかねません。
不定期調達は部品の価格上昇も招きます。
多くの部品は輸入に頼っていますが、大阪府で複合部品を手がける企業は「在庫を抱えるリスクがあるので、コストを削減するまとめ買いができない」と明かしています。
受注数が不安定で企業の負担も大きい
大型装備品に定価はありません。
日本では原価総額に一定の利益を上乗せする「原価計算方式」を採用し、装備品単位で利益が出るようにしています。
ただ企業は受注数が変動しても、常に人員を確保しなければならず、全体として割に合わないケースがあります。
2000年代以降、三井E&S造船やダイセルなど装備品からの撤退が相次いでいます。
ある撤退企業の部門責任者は「受注数が不安定で、負担が重かった」と振り返っています。
別の企業に生産を移す場合、設備投資は国が全額負担します。
財務省によると、P1向け部品生産の追加負担は08年度以降で計334億円でした。
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安定的な大量生産ができれば生産コストは下がる
米国から購入する装備品は単価が大幅に下がる例もあります。
最新鋭戦闘機F35Aは一時179億円まで上昇しましたが、22年度予算は96億円まで下落しました。
各国への大量販売によって生産コストが下がったのです。
欧州では複数国の共同購入で単価高騰を抑えています。
日本では最長10年間の装備品契約を可能にする特別措置法が15年に施行され、防衛省はP1を20機まとめ買いしました。
これで1機187億円に抑えることに成功しましたが、20年度から毎年度契約に戻し、単価が再び上昇しました。
長期契約は多額の負担が確定することに批判もあり、対象拡大には慎重です。
安全保障の議論を深めてこなかったことが調達方針が定まらない要因になっています。
国が長期契約をすれば調達コストを下げることができる
防衛装備庁OBは「大幅な仕様変更がなく、国として調達方針が固まっている大型装備品については、できるだけ長期契約にすべきだ」と指摘しています。
調達コストを下げ、ほかの必要な設備や弾薬など消耗品に予算を振り向けるべきだと訴えています。
まとめ
日本経済新聞の取材で、2008~21年度の間に4つの主要国産装備品の単価が最大1.5倍になっていたことが明らかになりました。
防衛装備品の調達を巡り、日本の契約慣行が価格高騰を助長しています。
部品の値上がりに加え、不定期の契約がコスト増を招いています。
日本ではロシアのウクライナ侵攻などを受け、防衛費増額を巡る議論が活発になっています。
円安やインフレで逆風が強まる中、調達費の抑制策を講じなければ配備計画に影響が出かねません。
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