日本の医薬品の存在感が低下して医薬品の貿易赤字は増える一方です。
日本発の画期的新薬は減り、2000年代後半から膨らむ貿易赤字額は2021年に初めて3兆円を超える見通しです。
新型コロナウイルスでも国産ワクチンの開発は進まず、輸入に頼っています。
医薬品開発は化合物の合成からバイオ創薬へと競争力の源泉が移っています。
しかし、技術転換に日本は遅れています。
その原因は何なのでしょうか?
詳しく解説していきます。
医薬品の貿易赤字は2兆3613億円
貿易赤字額が膨らみ始めたのは15年ほど前からです。
財務省の貿易統計によると、医薬品の貿易赤字は6年連続で2兆円を超えます。
医薬品の20年の貿易赤字は2兆3613億円の赤字。
スマートフォンを含む通信機の赤字(約2兆5000億円)に迫る規模です。
日本全体を支える自動車や電子部品の貿易黒字を食い潰しています。
そこに新型コロナワクチンが追い打ちをかけました。
21年1~10月はワクチン輸入額が前年同期比で10倍以上のペースに増えました。
年間では貿易赤字額が3兆円を超えそうです。
医薬品の貿易赤字の原因は2つ。
1つは日本企業が海外に生産拠点を移したこと。2つ目は日本企業の創薬力が落ちたということです。
存在感を失っていく日本の医薬品
かつて、日本は欧米と並ぶ新薬開発拠点でした。
2000年に世界売上高上位の医薬品20品目のうち、日本企業が開発したのは三共(現第一三共)の高脂血症治療薬や、武田薬品工業の抗潰瘍剤など3つありました。
それが2020年は米医薬コンサルティングのIQVIAによると小野薬品工業のがん免疫薬「オプジーボ」の1つだけになってしまいました。
これまで日本は植物や動物などが持つ化合物を化学的に改変し、合成した低分子薬を得意としてきました。
職人気質の研究者が地道に改良を重ね開発につなげます。
ノーベル化学賞は8人の受賞者を輩出します。
主流は低分子薬からバイオ創薬に
21世紀に入り主流は低分子薬からバイオ創薬に移っています。
病気の原因の分子に固く結びつく抗体医薬は効果が強いです。
がんや自己免疫疾患などが治療できるようになりました。
薬価は高く、年1000万円を超える抗体医薬も珍しくありません。
低分子薬にたけていた日本企業はバイオ創薬に出遅れました。巻き返しは簡単ではありません。
バイオ創薬は幅広く、高度な技術が必要となります。
資金も必要となりますが、日本企業の研究開発費は欧米企業に比べ少ないです。
日本企業の研究開発費は欧米企業に比べ少ない
QUICK・ファクトセットで大手製薬の5年分の研究開発費が、次の5年の研究開発費とEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)をどれだけ増やしたかによって、各社の研究開発の効率の高さをみると、上位20社のうち日本企業は2社にとどまります。
コロナ治療薬の「レムデシビル」を実用化した米ギリアド・サイエンシズは5年前の8倍以上を次の5年間で稼ぎました。
バイオ創薬に強みを持つ米アッヴィや米バイオジェンも5倍を超えています。
日本企業は額、効率ともに欧米に見劣ります。
国として創薬をしやすい仕組みを整える必要がある
創薬の難易度が増し、産学連携も重要になります。
欧米は大学の先端的な研究成果を基にスタートアップが起業する流れがあります。
初期の臨床試験(治験)を経て大手製薬企業が買収し、実用化につなげる例が多いのです。
投資家が資金を支えて、好循環につながっています。
日本は投資家層が薄く、橋渡しを担うスタートアップが育っていません。
IQVIAによると、20年の日本の医薬品市場規模は10兆3717億円。バイオ創薬が中心となり、高額な医薬品を輸入に頼るようになれば貿易赤字は一段と膨らんでいます。
日本は新型コロナワクチンの承認が遅れ、米国の緊急使用といった承認や、治験でのデータ活用に課題を残しました。
企業が再編によって資金力を高めるだけでなく、国として創薬をしやすい仕組みを整えなければ、日本の医療制度自体を揺るがしかねません。
まとめ
日本の医薬品の存在感が低下して医薬品の貿易赤字は増える一方です。
日本発の画期的新薬は減り、2000年代後半から膨らむ貿易赤字額は2021年に初めて3兆円を超える見通しです。
財務省の貿易統計によると、医薬品の貿易赤字は6年連続で2兆円を超えます。
医薬品の貿易赤字の原因は2つ。
1つは日本企業が海外に生産拠点を移したこと。2つ目は日本企業の創薬力が落ちたということです。
21世紀に入り主流は低分子薬からバイオ創薬に移っています。
バイオ創薬は幅広く、高度な技術が必要となります。
資金も必要となりますが、日本企業の研究開発費は欧米企業に比べ少ないです。
欧米は大学の先端的な研究成果を基にスタートアップが起業する流れがあります。
初期の臨床試験(治験)を経て大手製薬企業が買収し、実用化につなげる例が多いのです。
日本は投資家層が薄く、橋渡しを担うスタートアップが育っていません。