2023年9月5日、ロンドンに次ぐ英国第2の都市バーミンガムが事実上の財政破綻を宣言しました。
産業革命の中心地として栄えた同市は10年前から市職員の不平等賃金をめぐる訴訟を抱えていました。
「6億5000万ポンド(約1200億円)を超える同一賃金債務に見あう財源がない」と、バーミンガム市議会は地方財政法に基づく事実上の破綻通知を出しました。
人口114万人の中核都市の破綻は世界的にみても稀です。
同一賃金を求める訴訟は後を絶たず、破綻は10年前から予期されていました。
詳しく解説していきます。
【男女平等】イギリスのバーミンガムが同一賃金で財政破綻
バーミンガムはかつてごみ収集や道路清掃などを担う男性職員にボーナスを払い、教育助手や給食、介護などの女性職員に支払ってきませんでした。
約5000人の女性職員らが不当だとして訴訟を起こし、雇用審判所は2010年4月に市に支払いを命じました。
さらに退職から6カ月とされた請求期間の延長をめぐって裁判が行われました。
2012年10月の最高裁判決で請求期間は6年と確定し、市は膨大な請求を受けることになったのです。
翌月の2012年11月、市議会は支払いが少なくとも7億5700万ポンドにのぼると明らかにしました。
職員側の勝訴が新たな請求を呼び、負債は増える一方
その後は歳出を減らすものの、職員側の勝訴が新たな請求を呼び込むことになり、バーミンガムの負債は増える一方でした。
訴訟を支援する労働組合は不平等の原因を根絶するための職務評価の枠組みが未整備だと主張しています。
11億ポンドを支払った現在も7億ポンド規模の負債が残り、新たに毎月500万~1400万ポンドの負債が生まれています。
年間予算が30億ポンド台のバーミンガムには大きすぎる負担です。
歳入の多くを占める英政府からの補助金は2010年ごろから削られ始めました。
2023年9月1日、外部監査で過年度に計上した同一賃金請求の引当金が過少だと指摘を受け、市議会の財務責任者は「決算を承認できない」と破綻宣言しました。
男女の同一賃金法を整備したが、格差は残り続けた
英国は欧州共同体(EC)加盟のため1970年に男女の同一賃金法を整備しました。
しかし実態は格差が残り、労働組合の後押しを受けた女性職員らが勤め先の自治体を相手取り訴訟を起こすケースが2000年代から相次ぎました。
バーミンガムはこうした運動の中心地でした。
職員と和解を選んだ自治体もありましたが、バーミンガムは顧問弁護士の助言もあって最後まで和解しませんでした。
裁判で勝てると踏んでいたのです。
事実上の破綻を宣言した同市は社会的弱者の保護や教育、ごみ収集など法定サービス以外の歳出を止めることになりました。
緊縮下でも未払い賃金の支給は優先されるとみられていますが、市議会の担当者は「現段階で言えることは何もない」と話しています。
他の自治体も財政の厳しさは共通
バーミンガムのような特殊事情を抱えていない英自治体も財政の厳しさは共通しています。
英メディアによると、地方財政法に基づく最初の破綻は2000年のハックニー、しばらくあいて18年にノーサンプトンシャーが続きました。
ここ数年は毎年破綻が起きています。
中央政府からの資金の削減に加え、高齢化や支援を必要とする子どもの増加、インフレも重なり、状況は悪化しています。
今後も破綻する自治体は続くと予想されています。