中国が世界中の土地を購入していることが分かりました。
中国勢が国外に触手を伸ばす背景には経済発展で膨らむ内需があります。
土地を囲えば、世界的に需給が逼迫する資源の安定調達にもつながるからです。
詳細を解説していきます。
中国が世界中の土地を大量購入
中国企業がアジアやアフリカの土地を囲い込んでいます。
国外で過去10年に取得・貸借した面積を集計すると米国をはじめ他の主要国を圧倒します。
食糧や資源の供給源である新興国・途上国が経済的に支配されることへの懸念や、安全保障上の警戒論も高まっています。
購入した土地で育てられた作物等の輸出先は中国
ミャンマー北部カチン州では、市街地から離れるとバナナ農園が視界に広がります。
高さ3メートルほどの木が密集し、濃い影を落としています。
2015年ごろから開発が加速し、見通しの良かった景観が一変しました。
非政府組織(NGO)などの調べによって農園の多くに中国資本がかかわっていることが明らかになっています。
国連統計で13年に150万ドルだったバナナの輸出額は20年に3・7億ドルと250倍に増えました。
ほぼ全量が中国向けです。
現地住民によると「2月のクーデター後も農園はこれまで通り運営されている」。国軍にも貴重な税収源になるためです。
中国資本で地域が変わる光景は各地に広がっています。
天然ゴム産地のベトナム南部ビンフォック省では75ヘクタールもの土地で大量の豚が飼われ始めました。
中国畜産大手、新希望六和が19年に設けた養豚場です。
同社は「稼働から1年が過ぎ、体制が整ってきた」といいます。
ベトナム中部や北部にも拠点を広げています。
中国勢が押さえた世界の土地はダントツの1位
欧調査機関ランドマトリックスによると11~20年に中国勢が押さえた世界の農業・林業・鉱業用地は648万ヘクタールにもなります。
北海道の4分の3超の規模で、英国勢の156万ヘクタールや米国勢の86万ヘクタール、日本勢の42万ヘクタールを大きく上回ります。
中国が世界中の土地を購入する理由
中国勢が国外に触手を伸ばす背景には経済発展で膨らむ内需があります。
土地を囲えば、世界的に需給が逼迫する資源の安定調達にもつながるからです。
林業はコンゴ民主共和国の土地が過半を占めます。
木材価格が高騰するウッドショックが各国に広がるのを尻目に、現地では中国企業の万鵬が大量の木材を自国に輸出しています。
在日コンゴ大使館は日本経済新聞の取材に「契約についてはノーコメント」と答え、詳細は分かっていません。
鉱山の囲い込みもあります。米アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所などの調査では、19年に中国五鉱集団がタンザニアの鉱山に2・8億ドル、20年に中国有色鉱業集団がギニアの鉱山に7・3億ドルを投資しました。
電気自動車(EV)の蓄電池などに必要な鉱物の確保が狙いとみられています。
進出先の国は潜在的リスクを抱えています。経済効果が大きいほど依存も深まるからです。
かねて中国は広域経済圏「一帯一路」構想を掲げています。
開発に伴って現地国側が重い借金を負い、支配から抜け出せなくなる「債務のワナ」の問題もあります。
中国による債務の罠
スリランカでは5月、最大都市コロンボ郊外の高速道路を中国港湾工程(CHEC)が受注しました。
建設後そのまま所有し、利益を回収した上で18年後に引き渡します。
CHECが同国南部の港を整備した際は中国が融資し、返済に窮したスリランカが99年間の運営権を譲渡しました。
債務のワナの典型です。
今回の道路も入札が不透明との批判がくすぶります。
中国の動きに対する日本の策
対岸の火事とも言っていられません。
日本は6月、安全保障で重要な土地の取引を規制する新法ができました。中国を念頭に外資の不透明な進出を防げるようにするためです。
既に北海道の航空自衛隊千歳基地の周辺などで外資が土地を取得した事例があります。
一般の森林などにはまだ網がかかっていません。
農林水産省によると国内で外資が取得した農地は46ヘクタール、森林は7560ヘクタールです。
他に「名義が日本人でも背後は中国資本という例がある」(公安関係者)。目的が分からないことによる不安を指摘する声もあります。
土地取引に詳しい姫路大学の平野秀樹特任教授は「無秩序な囲い込みを防ぐには一層の規制強化が不可欠」と話しています。