2022年は銀行間の送金をめぐる環境が大きく変わる見通しです。
21年に銀行間の送金手数料が下がったのに伴い各銀行が利用者から受け取る手数料を下げたのに続き、10万円以下ならほぼ無料で送れる新たな仕組みもできます。
一方、大手銀は店頭窓口での手数料の引き上げを検討しており、手数料は二極化が進みそうです。
2022年秋にも銀行間の送金手数料が無料に
全国銀行協会は2021年10月から、それまで3万円以上で162円、3万円未満で117円だった銀行間でお金をやり取りする際の手数料を一律62円に下げました。
原価にあたる銀行間手数料の低下に伴い、3メガバンクをはじめ各行は利用者が支払う手数料を引き下げました。
これまで預金取扱金融機関しか使えなかった全銀システムのフィンテック企業への開放も決め、国際送金サービスを手がける英ワイズが接続を検討しています。
さらに3メガバンクとりそな銀行、埼玉りそな銀行の大手5行は全銀システムとは別に、新しい少額送金サービスを始めます。
「ことら」と呼ぶ10万円以下の少額専用の送金サービスで、携帯電話の番号やSNS(交流サイト)のID、メールアドレスなどでお金を送れるようになります。
1回あたりの送金にかかる銀行側の手数料は1・15~4・5円程度で、大手行は利用者が無料で利用できるようにする方向で検討しています。
銀行には紙幣の流通量を減らしたい思惑がある
既存の送金手数料を下げ、無料の少額送金サービスも新設すれば銀行の手数料収入は激減します。
それでも引き下げに動くのは、取引をデジタルに誘導することで年間1兆6000億円とされる現金を扱うコストを減らせるとの算段があるからです。
国際決済銀行(BIS)によると、20年末時点の紙幣流通高の国内総生産(GDP)比は、米国が10%、ユーロ圏が13%だったのに対して日本は22%と紙幣の流通量が多いです。
各行がネットバンキングの手数料をATMや窓口と比べて安く設定しているのも、脱現金を進めたいとの狙いからです。
窓口での手数料は引き上げる
送金手数料の見直しはこれで終わりません。
大手行は全体の送金手数料の引き下げを先行させる一方、窓口での手数料は引き上げる検討を進めています。
手間とコストがかかる窓口での手数料を上げることで取引をネットに誘導し、振り込みや税金納付といった手続きに対応するカウンターを持たない軽量店舗への切り替えを進める狙いです。
ある大手行は銀行間手数料が下がるタイミングで窓口での手数料を引き上げる準備を進めていました。
当時は、政府が成長戦略に掲げて実現した銀行間手数料の引き下げを起点に一部とはいえ手数料が上がることに金融庁が難色を示したため封印しました。
窓口手数料の引き上げ見送りで年間、数十億円規模で収支が悪化するといい、いつまでも先送りできない課題なのです。
口座の維持・管理手数料の導入が予想される
マネーロンダリング(資金洗浄)対策の費用などを考えれば、窓口にとどまらず口座の維持・管理手数料の導入を含め抜本的な手数料体系の見直しは避けて通れません。
もっとも、サービスの改善を伴わず銀行側の都合で手数料だけ上がると映れば利用者の離反を招きます。
今秋にも見込まれる少額送金サービスの稼働は銀行にとって引き上げの好機になり得ます。
金融サービスのデジタルトランスフォーメーション(DX)をいかに進められるかが今後の銀行の競争力を左右します。
手数料の引き下げを含めてネット取引の利便性を高めつつ窓口の手数料を上げる「K字型」ともいえる手数料戦略をとるかどうかは、DXへの本気度をはかる試金石になります。
まとめ
2022年秋にも銀行間の送金手数料が無料になる見通しです。
大手5行は全銀システムとは別に、新しい少額送金サービスを始めます。「ことら」と呼ぶ10万円以下の少額専用の送金サービスで、携帯電話の番号やSNS(交流サイト)のID、メールアドレスなどでお金を送れるようになります。
1回あたりの送金にかかる銀行側の手数料は1・15~4・5円程度で、大手行は利用者が無料で利用できるようにする方向で検討しています。
大手行は全体の送金手数料の引き下げを先行させる一方、窓口での手数料は引き上げる検討を進めています。
手間とコストがかかる窓口での手数料を上げることで取引をネットに誘導し、振り込みや税金納付といった手続きに対応するカウンターを持たない軽量店舗への切り替えを進める狙いです。
マネーロンダリング(資金洗浄)対策の費用などを考えれば、窓口にとどまらず口座の維持・管理手数料の導入を含め抜本的な手数料体系の見直しは避けて通れません。