日本企業による海外のIT(情報技術)サービスへの支払いが拡大しています。
2023年の日本のデジタル関連の国際収支の赤字は前年から16%増え、5.5兆円に膨らみました。
一方で、海外子会社で稼いだ企業の利益を支えに日本の経常収支は20兆円超の黒字でした。
しかし、利益の一部は海外にとどまり、経常黒字は見かけほど多くありません。
デジタル分野での日本企業の稼ぐ力の向上や、国内投資の受け皿となる成長産業の創出が課題です。
詳しく解説していきます。
デジタル赤字5.5兆円 5年で倍増
財務省が2月8日発表した国際収支統計では、2023年の経常黒字が20兆6295億円で22年比で92.5%増えました。
資源高が一服したことで貿易収支の赤字幅が減少しました。
サービス収支のインバウンド(訪日外国人)関連が黒字幅を押し上げました。
インバウンド関連の旅行収支は3.4兆円の黒字。
それ以外のサービス収支は振るわず、特に「デジタル赤字」が5.5兆円でした。
赤字額は5年前から倍増しています。
デジタル分野の国際収支は、ウェブ広告やクラウドなどデジタルサービスと関係している
(1)著作権等使用料
(2)通信・コンピューター・情報サービス
(3)専門・経営コンサルティングサービス
を集計しました。
デジタル赤字の原因はクラウドやソフトウエアへの海外依存度
赤字拡大の原因は、日本企業が米IT大手などが提供するサービスを利用したことです。
クラウド事業を手掛ける米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)など外資系が国内でもシェアを拡大しています。
ネット広告の配信でシェアの大きなグーグルやメタなど外資テック企業のサービスは広告効果や使い勝手で優れています。
生産性の向上にデジタルトランスフォーメーション(DX)は欠かせません。
しかし、日本企業のクラウドやソフトウエアへの海外依存度は大きく、所得の海外流出につながっています。
第1次所得収支の黒字は34兆5573億円
一方で、外国からの投資利益などを計上する第1次所得収支の黒字は34兆5573億円で、1985年以降で最大の黒字幅となりました。
デジタル赤字を完全に補い、経常黒字を押し上げました。
海外金利の上昇で受け取る利子が増えました。
日本企業の海外子会社の配当金といった直接投資収益も20.6兆円の黒字を確保しました。
経常黒字は見かけほど多くない
日本に還元されている海外の稼ぎは見かけほど多くありません。
国際収支統計では子会社が成長投資などのために海外に置いたままにした利益も、直接投資の利益として黒字に計上しています。
直接投資を項目ごとにみると、海外子会社が内部留保として蓄える「再投資収益」が10.3兆円です。
日本の親会社に支払われた「配当金・配分済み支店収益」の10.1兆円を上回りました。
日本企業はリーマン・ショック後に海外に投資した
日本企業はリーマン・ショック後に円高が進んだ過程で、海外の稼ぎを海外での再投資に振り向ける動きが活発になりました。
再投資収益は2007年には1.8兆円でしたが、2017年には5.5兆円まで増えました。
直近ではさらに拡大し、2021年以降は年10兆円前後で推移しています。
日本製鉄は2023年12月に約2兆円を投じてUSスチールの買収を表明しました。
海外での成長を取り込み、連結ベースの企業収益を高める狙いです。
課題は日本に利益を還流すること
内閣府の国内総生産(GDP)と、GDPに海外で稼いだ分をくわえた国民総所得(GNI)の差をみると、最新の2023年7~9月期は年換算の名目値で33兆円まで膨らみました。
差は10年間で2倍弱に拡大しています。
海外での投資や成長を模索する企業の動きは今後も続いていく見通しです。
人口減少で市場の拡大が見通しにくい日本に利益を還流することが課題です。