日本で防衛装備品の生産から撤退する企業が相次いでいます。
技術が高度になった半面、防衛省が発注する数は20年ほどで半分に減りました。
最新の戦闘機などは日本企業だけで開発が難しく、米国依存も一段と強まっています。
中国や北朝鮮の脅威が増す状況で日本の防衛産業は消滅してしまうのでしょうか?
自前で残す技術の選択と集中が重要です。
防衛産業から撤退する日本企業が続出
「生産に積極的になれない企業が多く、産業が脆弱だ」。岸信夫防衛相は危機感をあらわにしています。
2019年にコマツが防弾性能などを持つ「軽装甲機動車」の開発を中止しました。
20年には航空機のパイロットの緊急脱出装置を納入してきたダイセルが撤退を決めました。
防衛産業から撤退する日本企業が続出する理由は2つあります。
1.ソ連崩壊で防衛費が減少
防衛省によると陸上自衛隊は1989~98年に大砲を積んだ自走砲や装甲車、戦車を年平均68・6両調達していました。
それが09~18年は26・6両にしぼみました。
海上自衛隊の掃海艦艇や護衛艦、航空自衛隊のヘリコプターや戦闘機も減っています。
冷戦期の日本は旧ソ連の北海道侵攻の脅威を踏まえ、戦車などの陸上装備を国内企業から大量に調達していました。
冷戦が終わって2000年代に入ると防衛分野は削減対象になったのです。
政府は03~12年度の10年間で防衛予算を5%減らし、調達を絞り込みました。
業界が「お久しぶり生産」と呼ぶ間隔があく受注が増えました。技術者や設備を維持する企業の負担は重くなったのです。
2.防衛装備品は利益が出にくい
防衛装備品はもともと利益が出にくいです。
防衛省は一般的に原価に5%ほど上乗せした額で発注し、企業努力の余地は少ないです。
営業利益率が10%超の米防衛大手ロッキード・マーチンなどと差があります。
日本勢の多くは事業全体に占める防衛分野の割合が低い。「仮に100%のシェアを取ったとしても年間予算からするとわずかだ。新規生産するメリットはない」。21年に陸自向けの新規の機関銃生産から撤退した住友重機械工業の下村真司社長は漏らします。
海外依存の日本の防衛装備品
日本の周囲は中国や北朝鮮の脅威が増しています。
ミサイル防衛や南西諸島の守りの強化が重要になり、政府は直近の10年ほどで防衛費を1割積み増しました。
それでも国内産業の受注増には直結していません。
艦艇などに搭載する巡航ミサイルの射程は大幅に伸び、戦闘機はレーダーに映りにくい「ステルス機」が主流になっています。
国内勢の独自開発は困難で、米国の日本への対外有償軍事援助(FMS)が10年間で10倍に膨らみました。
米国が開発した最新鋭のF35戦闘機の開発費は6・1兆円で、70年代に運用を始めたF15の6倍を投じました。
各国は苦労して手に入れた独自技術を簡単に譲りません。
日本は機体の組み立てしか許されず、ほとんど生産に携われていません。
自前の防衛産業が衰退すれば自衛隊が使う装備の機動的な導入が難しくなります。保守や修理にも悪影響が及びます。
国内企業保護のための単純な大量発注は非効率で本末転倒です。
最新装備を海外から導入しつつ、米国などが一目を置く技術に集中投資する戦略が基盤維持に不可欠です。
日本は研究開発費の防衛分野の比率が3%と低い
防衛省幹部は「米国は10年先の脅威を見据えて装備開発に着手する。世界に売れる技術で企業はもうかってさらに投資する」と分析しています。
日本は研究開発費の防衛分野の比率が3%と低く、韓国の16%、英国の11%に見劣りします。
政府は22年度予算案で防衛分野の研究開発費を1・4倍に積み増しました。
中国の極超音速ミサイルを迎撃できる「レールガン」やドローンを電波で撃ち落とす研究を進めています。
研究開発は22年に改定する国家安全保障戦略の柱にもなります。
将来の戦い方を見据えて中国の抑止に真に有効な技術の見極めが欠かせません。
まとめ
日本で防衛装備品の生産から撤退する企業が相次いでいます。
理由は主に2つです。
- ソ連崩壊で防衛費が減少
- 防衛装備品は利益が出にくい
技術が高度になった半面、防衛省が発注する数は20年ほどで半分に減りました。
防衛省は一般的に原価に5%ほど上乗せした額で発注し、企業努力の余地は少ないです。
営業利益率が10%超の米防衛大手ロッキード・マーチンなどと差があります。
最新の戦闘機などは日本企業だけで開発が難しく、米国依存も一段と強まっています。
自前の防衛産業が衰退すれば自衛隊が使う装備の機動的な導入が難しくなります。保守や修理にも悪影響が及びます。
日本は研究開発費の防衛分野の比率が3%と低く、韓国の16%、英国の11%に見劣りします。