政府は2022年末の改定をめざす中期防衛力整備計画で防衛費の5年間の総額を初めて30兆円台とする調整に入りました。
現行計画から3兆円増やし1年当たり6兆円の水準を目指します。
中国の軍備増強を念頭に日米新時代の協力強化の基盤づくりにつなげたい考えです。
日本の防衛予算が初の6兆円
21年度補正予算案で7700億円を盛り込み、22年度予算案では過去最大の5・4兆円を計上する見込みです。合わせた6兆円規模を改定の目安とします。
政府は中期防で防衛装備品の取得費などを積み上げ5年間の予算総額を示しています。米軍再編関連経費は含みません。
現行計画は19~23年度の予算総額をおよそ27・5兆円としました。
これを1年前倒しで改定し次期計画で23~27年度分を1割程度増やします。
21年4月に当時の菅義偉首相とバイデン米大統領が共同声明のなかで新時代の日米協力のあり方として「日本は自らの防衛力を強化することを決意した」と盛り込みました。
中期防で示す増額方針はその具体策にあたります。
米国は安全保障の関心を中国や北朝鮮など東アジアやインド太平洋地域に移しており、同盟国である日本も応分の役割を果たすよう期待を寄せています。
防衛予算、増額分の使い道
防衛費の増額分は主に新規装備品の取得や、中国や台湾に近い南西諸島への部隊の展開やミサイル防衛の強化に充てることになりそうです。
地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替となる艦艇の整備や35年ごろに配備する「次期戦闘機」の開発費も必要になります。
21年度補正予算案でもP1哨戒機やC2輸送機、弾薬の費用などを前倒しで取得する予定です。
サイバー防衛や宇宙、電磁波といった「新領域」への対応も拡充します。
宇宙から相手国軍の動きに関する情報を集める人工衛星やサイバー攻撃に対処する技術の研究などに予算を投じます。
すでに米国、中国などは手厚い予算を充てています。
防衛費増額の理由
防衛費増額の背景には中国の軍事費があります。
21年の国防費は20兆円規模と日本の4倍にあたるのです。
経済成長を支えに1991年から30年間で42倍程度に増やしました。
有事が危惧される台湾と中国は97年時点で軍事費がほぼ同水準でした。
いまは中国は台湾の15倍ほどになっています。
中国の戦闘機は台湾の防空識別圏(ADIZ)に相次ぎ進入しています。
日本は備えができているのでしょうか?
第4・5世代と呼ばれる最新型の戦闘機は2021年時点で日本は300機あまり。1100機規模の中国の3割に満たないです。
近代的な潜水艦や駆逐艦も半数程度にとどまっています。
陸上自衛隊の総定数は1997年以来、16万人前後のままです。
戦車部隊も300両を温存しています。冷戦時代、旧ソ連の北海道上陸に備えた体制が残ります。
防衛省はレーダーが探知しにくいステルス性能を持つ最新鋭戦闘機の配備を急いでいます。
米国から「F35」の取得を加速します。
人工知能(AI)を使った無人戦闘機の技術を同時に研究し、新たな戦い方に対応します。
2035年ごろの運用開始を計画しています。
次期防衛システムの見直し
海上では少人数で運用できる多機能護衛艦「FFM」の建造を進め、効率的に守りを固める手段を拡充します。
潜水艦や哨戒機の能力も向上し、日本周辺の海域の監視を強化します。
弾道ミサイルに備えたミサイル防衛システムも見直しを迫られています。
中国や北朝鮮は変則軌道のミサイルを発射しており、確実に撃ち落とせる保証はありません。
代替策としてはミサイル発射拠点をたたく「敵基地攻撃能力」があります。
22年の中期防のとりまとめまでに是非を判断します。
これに先立ち開発中の巡航ミサイルの射程を1000キロメートル超まで延ばす計画です。
20年代後半の配備を目標に中国を意識して抑止力の向上をめざします。
防衛費が国内総生産(GDP)の1%を超える
政府は当初予算の防衛費の目安を国内総生産(GDP)の1%以内としてきました。
新型コロナウイルスの影響が出る前の19年度の名目GDPは557兆円程度。1年当たりの防衛費が6兆円規模に膨らめばこの枠を超える公算は大きいです。
背景には日本周辺を巡る情勢が冷戦期よりも厳しくなっているとの認識があるのです。
中国による台湾への軍事行動が懸念され、有事になれば日本も米国から軍事面での協力を求められる可能性があるります。
米中対立が激しくなるほど米国の同盟国である日本にとっても緊張は高まります。
たとえば中国や北朝鮮は極超音速ミサイルの開発を急いでいます。
速度が速く軌道も変則的で、日本の今のミサイル防衛体制では迎撃は難しいです。
敵基地攻撃能力の保有など実質的な抑止力につながる最新装備の研究・開発を進める必要があります。
防衛費の計上基準、国内総生産の1%目安はどうなのか
防衛費の計上基準も課題です。
戦後、アジアが日本の「軍事大国化」を懸念し、日本は国内総生産(GDP)の1%枠をはめてきました。
いまは米国から2%への増額を求められ、環境が変わりました。
防衛省の関連費用を中心に防衛費を計算し「当初予算でGDP1%」を予算の目安としています。
米国など海外は北大西洋条約機構(NATO)の基準を採っています。
日本でいう恩給費や海上保安庁を含みます。
20年度の防衛費を同基準で示すと1・2%で、すでに1%を上回っています。
実際にトランプ前大統領が日本に「応分の負担」を求めた18年、政府はこの指標をもとに1・3%とする案を一時検討しました。
等身大の費用をテーブルにのせてゼロベースで議論をします。
計画決定まで残り1年、政府・与党に課された宿題といえます。
米国の国防予算は年80兆円。中国は20兆円
米国の国防予算は年80兆円で、中国も20兆円ほどに膨らんでいます。
中国はこの10年で8割増えました。韓国の国防費は日本に並び、数年内に逆転するとの予測があります。
一方で日本の財政状況は依然厳しいです。
総花的に防衛費を増額するのではなく、安保環境の変化に即して抑止力の実効性を高める分野に予算を充てる「選択と集中」が不可欠となります。
必要な分野に充当されなければ増額への批判も出かねません。
まとめ
政府は2022年末の改定をめざす中期防衛力整備計画で防衛費の5年間の総額を初めて30兆円台とする調整に入りました。
現行計画から3兆円増やし1年当たり6兆円の水準を目指します
米国は安全保障の関心を中国や北朝鮮など東アジアやインド太平洋地域に移しており、同盟国である日本も応分の役割を果たすよう期待を寄せています。
防衛費増額の背景には中国の軍事費があります。
21年の国防費は20兆円規模と日本の4倍にあたるのです。
経済成長を支えに1991年から30年間で42倍程度に増やしました。
政府は当初予算の防衛費の目安を国内総生産(GDP)の1%以内としてきました。
新型コロナウイルスの影響が出る前の19年度の名目GDPは557兆円程度。1年当たりの防衛費が6兆円規模に膨らめばこの枠を超える公算は大きいです。
米国の国防予算は年80兆円で、中国も20兆円ほどに膨らんでいます。
中国はこの10年で8割増えました。韓国の国防費は日本に並び、数年内に逆転するとの予測があります。