スーパーなどで身近な「国産牛」が値上がりしています。
脂が入って高価な「和牛」が外食低迷の需要減少に苦しむのを横目に、日常の食卓を支える割安な赤身牛肉は健康志向もあって需要が堅調なためです。
一方、値上がり理由には人気のほかに供給が減っている背景もあります。
そこには酪農と密接に結びついた国産牛生産の事情があるのです。
国内の牛肉は3種類
国内で生産される牛肉は大きく3種類あります。
霜降りが人気の「和牛」は多くは脂が乗りやすい黒毛和種で、神戸牛や松阪牛などのブランド牛が有名です。
一方、スーパーなどで多く扱われ日常的に食卓に並ぶのは、白黒の模様で知られるホルスタインなど乳牛のうちのオスを中心に食肉用に育てた「乳用種肥育牛」です。
ほかに乳牛と和牛をかけ合わせ、乳用種肥育牛よりも脂は入るが和牛ほど高くない「交雑牛」があります。
スーパーでは和牛は「和牛」、交雑牛は「交雑牛」と表記することが多いです。
このため「国産牛」と表記されている牛肉の多くは、乳用種肥育牛を指します。
乳用種肥育牛の価格が上昇
農畜産業振興機構(東京・港)がまとめた21年度(8月までの平均)の「かたロース」の小売価格で比べてみると、乳用種肥育牛などは100グラムあたり556円と20年度比2・5%(14円)高いです。
交雑牛は同1・0%(8円)高の749円、和牛はほぼ横ばいの1029円でした。
高価格帯の和牛や交雑牛より乳用種肥育牛の上昇ぶりがうかがえます。
乳用種肥育牛は脂が入りにくい肉質で、健康志向の赤身肉人気が近年の追い風です。
この一年余りは新型コロナウイルス禍で強まる消費者の節約志向もあります。
ただ価格の上昇は人気の高まりだけが理由ではありません。実は供給が減っているのです。
農林水産省の食肉流通統計によると、食肉用の乳用種オスのと畜頭数は20年度は前年度比3・7%減の約15万9000頭。
9年連続で減少しています。
原因は乳用種肥育牛の減少
大きな要因が乳用種肥育牛の繁殖にあります。
食肉用の乳牛は、酪農家が産ませた子牛のうち牛乳が出ないオスを肥育農家が育てた牛で、いわば「酪農の副産物」なのです。
自然の摂理に従えば半々の割合でメスとオスは産まれるはずですが、近年は繁殖技術が進みメスを高確率で産めるようになりました。
農水省の畜産統計を見ると、乳用種メスの出生頭数は20年2月~21年1月は26万3800頭。オスは16万2900頭とメスより4割少なです。
オスが減って乳用種肥育牛の供給が引き締まり、相場の上昇圧力となりました。
オスの乳用種肥育牛の供給量が減った結果、国産牛を確保したい量販店は産地との直接取引を増やしました。
食肉中央卸売市場の経由率は1割を下回るまで減っています。
国産赤身牛肉の品質向上
産地側も量販店のニーズなどに応えるべく品質向上を行っています。
北海道鹿追町で乳用種肥育牛3000頭を育てる農事組合法人、笹川北斗農場の矢萩和幸社長は「赤身肉として競合する輸入肉に対し、味で勝負すると決めてエサなどを工夫してきた」と話します。
地元の酪農家で産まれたオスに絞った「鹿追生まれ、鹿追育ち」を出し、関西や関東の生活協同組合などに販売しています。
ホクレン農業協同組合連合会(札幌市)のビーフ課の景川能史課長は「コロナ禍のこの1年で価値が上がっていると感じる」と話します。
輸入牛肉の値上がりもあり「数量を減らさないでほしいという取引先が多い」。構造的に供給が先細りすることが否めないなかで、日常の食卓を支える割安な存在でいられるか。いずれハレの日の食事になってしまうかもしれません。
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