日本企業が株主への還元を強化している姿が鮮明です。
2024年3月期企業の予想配当額は合計15.2兆円と、3年連続で最高記録の更新を見込んでいます。
自社株買い計画の公表も過去最高に迫るペースです。
株主価値を損なう「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ状態」の是正に向けて、人材や設備への投資と株主還元の両立が重要です。
詳しく解説していきます。
日本企業の配当が過去最高の15兆円を突破
2024年3月期の見通しは15兆2200億円となり、過去最大だった2023年3月期の実績を1000億円ほど上回ります。
世界景気の先行きに不透明感が残っていますが、3割の企業が増配計画を打ち出しています。
インカムゲインを期待している投資家にっとっては朗報でしょう。
自社株を買い戻す動きも活発
株主還元の一環で自社株を買い戻す動きも活発です。
日本企業は今年、5月末までに合計5兆1600億円強の自社株取得枠を設定しています。
年間で9兆4000億円と過去最大だった2022年に匹敵するペースで推移しています。
ホンダは2024年3月期、発行済み株式の4%にあたる最大2000億円の取得、過去最高となる配当を計画しています。
シチズン時計は発行済み株式数の17%を取得しました。
ウシオ電機も17%と異例の大規模自社株買いを打ち出しています。
日本企業が株主還元を強化する理由
日本企業が株主還元を強化する背景には東京証券取引所の取り組みがあります。
3月末、PBRが1倍を下回る上場企業などに、株価水準を引き上げるための具体策を開示・実行するよう要請しました。
東証プライム市場に上場する企業のうち、株主から預かった資本の価値を損なっている「PBR1倍未満」は3月末時点で5割弱に達していました。
日本企業のPBRが低い原因
低PBRの原因は過大な手元資金にあるからです。
上場企業(金融など除く)の手元資金は2022年末時点で約100兆円まで積み上がっていました。
上場企業は本来、事業で稼いだ資金を原資に、人材投資や研究開発、設備投資などに振り向け、企業価値の向上を目指すべきです。
余分な資金は自社株買いや配当で株主に分配するのが良いとされています。
日本企業はどれも不十分でした。
経済協力開発機構(OECD)によると米国企業の賃金(米ドル建て)は過去30年間で約1.5倍になりました。
日本の賃金はほぼ横ばいです。
家計は収入増の展望を描けず、経済の縮小均衡につながったと言われています。
純利益のうち、どれだけ配当と自社株買いに振り向けたかを示す「総還元性向」を比較すると、米主要500社は100%近いですが、日本は5割にとどまっています。
海外投資家の評価が高まらない一因となっています。
手元資金は設備投資にも向かっている
日本企業にも変化が現れてきました。
株主配分の強化以外でも、現金をため込むのではなく投資へのシフトが見え始めています。
財務省の法人企業統計によると、金融・保険業を除く全産業の設備投資額は2023年1~3月期、前年同期から11%増の16兆5395億円と15年ぶりの規模になりました。