世界の投資家の間でインフレ懸念が強まり、名目上の利回りから物価上昇分を差し引いた「実質利回り」が下がっています。
投資先も実質利回りがマイナス圏に「水没」する国債から株式に移行しています。
値動きの大きい暗号資産(仮想通貨)など高リスク商品への投資も増えており、反動の懸念もくすぶります。
インフレによって米国債では実質的には損失がでる計算
金融商品を保有することで得られるリターンは利回りと呼ばれています。
例えば預金なら金利が利回りとなるが、物価の上昇が金利を超えてしまうと預金に置いていたお金の価値は目減りしてしまうことになります。
名目の利回りから物価上昇率を引いたものを実質利回りといいます。
世界の資産運用の中心となる米国債では10年物の利回りが2021年11月19日時点で1・54%。
市場がみる10年後の予想物価上昇率(年率)は2・65%のため、実質利回りは1・54%から2・65%を引いたマイナス1・11%となります。
米10年物国債で資金を運用しても物価の伸びを加味すれば、保有するだけで実質的には損失がでる計算です。
新型コロナウイルス禍前はプラスで推移していました。
他国の国債でも同じ
他国でもインフレが加速し、主要国の10年物国債ではコロナ禍の前からマイナスだった欧州各国や日本だけでなく、金利水準が高かったオーストラリアも0・6%程度のマイナスに沈んでいます。
信用評価が高い米国の投資適格社債の名目利回りは2%を超えていますが実質ではマイナス0・3%台です。
インフレ懸念の強まりから国債から株式へ
マネーは実質利回りがプラスの資産に流れやすくなっています。その一例が米欧など最高値の更新が続く株式です。
企業が年間に稼ぐ1株利益を株価で割った数値を「益回り」と呼びます。
債券は投資した元本の変動が小さいです。株式は株価の上昇によって投資元本が増えるため、益回りだけでは投資成果をはかれません。
ただ、インフレ懸念が強まるなど、投資環境が大きく変わるタイミングでは株式の益回りと債券の利回りを比較して、割安・割高を判断することが多いです。
米S&P500種株価指数の構成銘柄でみると名目の益回りは4・5%程度です。
予想物価上昇率を引いた実質の益回りは1・9%近辺になります。
19年末(3・7%程度)から低下しているものの、なおプラスを維持する。インフレ期待が低い日本では日経平均株価の構成銘柄で5%の実質益回りがあります。
QUICK・ファクトセットで世界の上場投資信託(ETF)の資金流出入額を調べたところ、債券に投資するETFへの流入額は10月に前月比31%増にとどまったのに対し、株式は同2倍に増加しました。
「米国の景気指標や企業業績の堅調さもあり、相対的に益回りの高い株式に資金が入りやすい」(JPモルガン・アセット・マネジメントの前川将吾グローバル・マーケット・ストラテジスト)。11月に入っても株式への資金流入は続いています。
米国のREIT指数は過去最高圏で推移
インフレ局面で不動産価格や賃料が上昇しやすいREITも比較的堅調です。
S&Pの米国のREIT指数は9月末から10%上昇し過去最高圏で推移しています。
分配金を投資口価格で割った実質利回りも米国はプラス0・1%、日本もプラス3%と国債と比べると高いです。
金など他の投資対象にも資金流入
金利がつかない金にもマネーが流れ込んでいます。
実物資産の金は物価が変動しても価値が左右されにくいため、実質金利がマイナス圏に沈んだときに買われやすいです。
指標となるニューヨーク先物は11月に入って一時6月以来の高値をつけました。
高インフレと景気後退が重なるとリスク退避からさらに買われやすくなります。
もっとも、多くの資産で実質利回りがマイナスに陥ると、投資家は利回りを求めてリスクをとる姿勢を強めます。
デフォルト(債務不履行)の可能性が高い分、利回りが高い米国の低格付け債(ハイイールド債)は実質利回りが2%とプラスを保ち、運用難の資金が群がっています。
投資適格債からハイイールド債に格下げされた「堕天使債」を集めた「iShares フォールン・エンジェルズ ドル建て債ETF」には年初から40億ドル(約4500億円)の資金が流入しました。
値動きの大きい仮想通貨も投資が急増しています。
コインシェアーズによると、仮想通貨などデジタル資産への資金流入額は年初から90億ドルを超え、ビットコインは11月に最高値を更新しました。
高まるインフレに対して、米国を中心に中央銀行による利上げ観測が強まっています。
利上げが進めば金利は上昇し、ハイイールド債など高リスク商品から資金が退避しやすくなります。
マネーの流れが逆回転するリスクにも目配りが必要です。