相続で譲り受けた田畑や森林などの土地を国に引き渡せる制度が2023年4月27日から始まりました。
管理困難といった理由で手放したい場合、所有権に争いがないなどの10要件を満たせば国の管理下に移せます。
法務省などに寄せられた相談は既に3000件を超えており、国民の関心が高いです。
管理が行き届かず「所有者不明土地」になることを防ぐ効果が期待されています。
詳しく解説していきます。
相続で譲り受けた土地を国に引き渡すことが可能に
施行された「相続土地国庫帰属法」は、相続した土地を国に引き取ってもらう制度が盛り込まれています。
利用する際は、土地の所有権に争いがないことや管理コストが高くないこと、住宅や車両などが残っていないことなどの10項目に当てはまる土地かどうかを検討します。
要件をすべて満たす場合、国の管理費用として10年分の負担金を納付する必要があります。
面積にかかわらず20万円のケースが多いですが、市街地にある宅地や田畑のほか、森林は面積に応じて算定されます。
相続した土地を手放したい場合、これまでは土地だけでなく相続した全財産が対象となる「相続放棄」などの手段に限られていました。
これまでの制度下では、自治体への寄付や不動産会社などへの売却も都市部以外の土地は売れにくく、結果的に放置されたままとなるケースが多かったです。
放置された土地は所有者不明となる恐れがある
放置された土地は所有者不明となる恐れがあります。
所有者不明土地問題研究会の報告書によると、2016年時点で約410万ヘクタールに上り、九州の面積を上回る規模です。
2040年には相続放棄などによって約720万ヘクタールに増えるとも推計しています。
国土交通省の2021年調査でも、国内の土地の24%で所有者が不明になっていることが判明してます。
原因は「相続登記の未了」(62%)や「住所変更登記の未了」(34%)などで、適正な手続きを踏まずに所有者不明の土地となっている実態が明らかになっています。
申し込みから決定まで半年から1年かかる
2023年2月下旬から約2カ月で3000件程度の事前相談が寄せられました。
申請後は全国にある50の法務局が書類審査や実際に土地の状況を見て、最終的に承認を決めることになります。
申し込みから決定まで半年から1年かかる見込みです。
審査の時間が長く、運用していく中でできるだけ短くすべきとの意見もあります。
要件も多いため、結果的に引き受けられなかった土地などについて、空き家・空き地バンクや農地のあっせんなど自治体と連携する枠組みが今後必要になります。
今回の制度は、相続した土地しか対象になりません。
最近は亡くなる前に所有者を変更する人も増えてきています。
所有権を放棄できる制度自体は画期的なので、生前贈与などの場合も利用できるような見直しが必要です。
法務省は運用状況を踏まえ、施行から5年をめどに見直しを検討する方針です。