国土交通省は時間帯によって価格を変える「ダイナミックプライシング」の鉄道運賃への導入に向けた制度設計に入りました。
鉄道各社が運賃を変えやすくするための法改正などを検討します。
混雑時は高く、すいている時は安いといった運賃になれば、混雑の緩和や鉄道会社のコスト削減につながります。
在宅勤務など働き方の変化で、鉄道事業も見直しを迫られています。
鉄道の乗客は通勤や通学に使う朝の時間帯に集中している
今の鉄道は割引券を除けば、同じ区間なら時間帯や曜日を問わず同じ運賃です。
値段が変わらないため、乗客は通勤や通学に使う朝の時間帯に集中しています。
特に首都圏では混雑が激しく、乗客を分散させることは長年の課題になっています。
一方で新型コロナウイルスの感染拡大は鉄道各社の収益環境に大きな影響を与えました。
2022年4月の全国の鉄道乗客数は約17億人で、コロナの感染が広がる前の19年4月に比べると2割減少。
都市部では在宅勤務も広がり、「今後もコロナ前水準に戻るのは難しい」との声も上がっています。
JR本州3社は20~21年度が2年連続の最終赤字となりました。
解決策の一つがダイナミックプライシング
長年の課題と足元の変化への解決策の一つがダイナミックプライシングとされています。
例えば定期券の価格を混雑する時間帯は高く、すいている時は安くすれば、乗客の利用を分散する効果が期待できます。
混雑の解消策です。
逆に利用の少ない時間帯を安価にすれば、自家用車を使う通勤客などを鉄道に誘導することができます。
混雑がなだらかになれば、ピークに合わせて多数の車両や人員を配置する必要がなくなります。
JR西日本の長谷川一明社長は「鉄道会社はコストを抑えられ、利用者もゆとりを持って利用できる」と説明しています。
ダイナミックプライシングとは
ダイナミックプライシングとは、販売状況や季節要因によって変わる需要と供給に合わせて、同じ商品・サービスの値付けを柔軟に上下させる「変動価格制」を指します。
需要の多い時期や曜日、時間帯に料金を高くすることで収益を拡大できます。
また、需要の少ない時期に料金を低くすれば利用を喚起できます。
米航空大手が1980年代から本格導入を始め、ホテルや航空券のように供給量に制限のあるサービス業で売れ残りを防ぐ手段として浸透してきました。
今の制度では鉄道で柔軟な運賃設定はできない
ただ、今の制度では鉄道で柔軟な運賃設定はできません。
鉄道運賃は事業者が必要な費用の合計に一定の利潤を加えた「総括原価方式」を基に、上限額を国に申請して認可を受ける。1997年に制度の骨格ができ、99年の鉄道事業法改正で現行制度が固まりました。
鉄道各社が上限額を引き上げるためには、3年先の収支見通しなどを示した上で公聴会の開催など複雑な手続きを進める必要があります。
運賃改定には1~2年かかるケースも多いです。
JR本州3社は87年の発足以降は実質的な運賃改定を行ってきませでした。
事業者が運賃を自由に設定できるよう検討すべき
国交省が2022年7月26日に開いた有識者会議では制度変更に関する提言をまとめました。
運賃改定後に国が事後チェックする前提で認可手続きを簡素にするほか、総括原価の算定方法を見直すなどの案を示しました。
具体的にはインフラの耐震補強や車内での犯罪などを防ぐための安全対策の費用を、運賃に反映させやすくすることなどを想定しています。
将来的には「現行制度そのものの見直しも必要」とし、事業者が国の指針を踏まえ運賃を自由に設定できるよう検討すべきだとの意見を加えました。
ローカル鉄道の収益改善を念頭に、事業者が自治体と合意できれば国の認可なしに上限額を引き上げられる仕組みも盛り込みました。
制度変更をにらんで変動運賃の導入に向けた検討
JR東日本やJR西日本は国の制度変更をにらんで変動運賃の導入に向けた検討を始めました。
JR東は21年から、定期券保有者を対象に平日朝の混雑ピーク時間帯を避けて乗車するとポイントを付与するサービスを開始しています。
通常の通勤定期券を値上げする一方、オフピーク時の割安定期券を用意して乗客を分散させる「時間帯別運賃」の実用化も目指します。
運賃制度の自由度が高い航空や高速バスにおいてダイナミックプライシングは一般的です。
国内線の航空運賃は00年に認可制から届け出制になり、航空会社は年末年始などの繁忙期は高く、閑散期は早く購入したチケットの価格は安く設定しています。
高速バスでは20年以降に導入が進みました。
海外では日本に比べて鉄道運賃の柔軟性は高い
英国では曜日や時間帯により運賃が変動するほか、事前に購入する割引運賃について予約の時期や状況に応じて多様な価格設定が認められています。
ドイツは都市間鉄道の運賃が個別列車の需給に応じて上下します。
英独やオーストラリアではほぼ毎年運賃改定も実施され、日本に比べて鉄道運賃の柔軟性は高いです。
変動運賃の課題
課題もあります。
仮に日本で午前7~8時台に高い運賃が設定されれば、会社員や学生にとって実質的な値上げになる可能性があります。
代わりの交通手段がないことも多いため、運賃設定にあたっては利用者への丁寧な説明が欠かせません。
本格的に導入されれば時間帯や曜日、季節によって運賃が変わります。
鉄道各社はホームページや駅の利用案内などを使い、利用者への周知を徹底する必要があります。
まとめ
国土交通省は時間帯によって価格を変える「ダイナミックプライシング」の鉄道運賃への導入に向けた制度設計に入りました。
ダイナミックプライシングとは、販売状況や季節要因によって変わる需要と供給に合わせて、同じ商品・サービスの値付けを柔軟に上下させる「変動価格制」を指します。
需要の多い時期や曜日、時間帯に料金を高くすることで収益を拡大できます。
また、需要の少ない時期に料金を低くすれば利用を喚起できます。
今の鉄道は割引券を除けば、同じ区間なら時間帯や曜日を問わず同じ運賃です。
値段が変わらないため、乗客は通勤や通学に使う朝の時間帯に集中しています。
ただ、今の制度では鉄道で柔軟な運賃設定はできません。
JR東日本やJR西日本は国の制度変更をにらんで変動運賃の導入に向けた検討を始めました。