最近、ネットの中で流行している「踊ってみた」や「歌ってみた」に管理の動きがあります。
というのも、現在ネットで閲覧可能なこれらのコンテンツは、著作権を無視しているものが多いのです。
「踊ってみた」や「歌ってみた」などのコンテンツを「n次創作」と呼ばれますが、
これらのn次創作を管理して、権利者に還元する仕組みの作り、双方にとって有益な状態を目指しています。
無法状態の「踊ってみた」「歌ってみた」が管理される
有名アーティストの楽曲に合わせて個人が踊ったり、漫画作品を解説したりする動画などを、ブロックチェーン(分散型台帳)技術で管理する試みが始まっています。
これらの動画は新たなヒットを生む期待がある一方、著作権侵害にもなりうる「グレー市場」の側面が課題でした。
法的な懸念を解消し、流通の促進を目指します。
ネット上では、ヒット曲や流行のダンスなどを一般の投稿者が「歌ってみた」「踊ってみた」といった動画や、人気のマンガ作品の内容を解説する動画などが投稿サイトに増え、多くの視聴者を集めています。
無断で投稿されたn次創作は著作権侵害にもなりうる
オリジナルの作品をもとに、2次的、3次的とどんどん派生して別の作品が生まれることから「n次創作」と呼ばれ、コンテンツ産業に欠かせない存在になりました。
ヒットした音楽ユニット「YOASOBI」の楽曲「夜に駆ける」も、小説の投稿サイトの作品をもとに生まれたことで有名です。
ただし、無断で投稿されたn次創作は著作権侵害にもなりえます。
投稿者の4割が原著作権者に許諾を得ていない
ネット上の「踊ってみた」などの動画の一部は、大手サイトが一括して権利管理団体などから利用許諾を得ています。
しかし、経済産業省の2020年の調査では、収益を上げる投稿者の4割が原著作権者に許諾を得ていませんでした。
「作品を広めてあげる」などの勝手な思いでの投稿や、著作権者側が「ファンに厳しく対応しづらい」と指摘をためらう場合もあります。
新たな市場になり得る
逆に、著作権侵害を恐れて投稿を自粛している潜在的な投稿者も多いとみられます。
経産省の試算では、n次創作のルールが整い、こうした問題が解消されれば関連市場の規模は現在の1兆2千億円から、2兆6千億円まで倍増するとみています。
n次創作と著作権保護を両立する試み
出典:日本経済新聞社
権利者に還元
エイベックスはブロックチェーンを使ったデジタル資産「NFT(非代替性トークン)」に着目しました。
情報を改ざんしにくい特長を生かし、ひとつの動画コンテンツからメロディー、歌詞、アーティストのダンスや服装などを細分化してNFTとして販売します。
例えば、あるキャラクターのNFTを買った人が、それを加工した動画を投稿すると、視聴者などから得た収益がキャラクターの権利者にも還元されます。
エイベックス・テクノロジーズの岩永朝陽社長は「ブロックチェーンは収益を還付する発明だ」と話しています。
ブロックチェーンを使ってn次流通させる実証試験
電通は2020年、角川アスキー総合研究所(東京・文京)などと、人気漫画を題材にブロックチェーンを使ってn次流通させる実証試験をしました。
実際の文豪をキャラクター化した漫画作品「文豪ストレイドッグス」の内容を解説するライブ配信は、他作品より1割近く多く投稿されました。
電通の鈴木淳一プロデューサーは「n次創作でもオリジナルをこえるファン層をつくるインパクトがある」と話しています。
無断販売を防止
有名キャラクターを無断で使ったNFTが販売されるなどの問題も起きています。
2020年にはコンテンツの著作権情報の適切な管理を広げるための業界団体「ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ」(JCBI)ができ、エイベックス・テクノロジーズや電通、博報堂などが参加しています。
NFTについて「適切なガバナンスのもとで発行・流通されることが、コンテンツ産業の適切な発展に資する」などの考えを公表しました。
JCBIの伊藤佑介理事は「コンテンツ会社や消費者が被害に遭わないよう、NFT発行のルールなどを整備したい」と話しています。
著作権を整理、各国もデジタル化に対応
デジタル時代に合わせて、著作権保護の仕組みを整える動きが各国で進んでいます。
中国の動き
中国はブロックチェーンの活用で先行。上海七印情報技術は、ニュース記事や画像の著作権保護に強みを持ち、2019年に日本に進出しました。
博報堂などと組み、書籍や記事、写真などの海賊版対策サービスを手掛けています。
上海七印の日本法人、原本(東京・千代田)の王楊天社長は「日本は知財大国。中国でのノウハウを生かせる」と話しています。
欧州の動き
欧州では著作権指令が2019年に改正され、動画サイト運営者などに権利者から許諾を得る最善の努力が義務化されました。
6月までに各国で法整備をすることになっています。
韓国の動き
韓国は中長期計画「著作権ビジョン2030」を策定しています。
軽微な侵害の刑事罰を除外して投稿者の萎縮を防ぐ一方、透明性のある流通の仕組みなどを整える方針です。