温室効果ガス排出量0を目指し、EUがガソリン車販売を2035年にも禁止する方針を打ち出しました。
また、EUと同程度の削減努力をしていない国(企業)へCBAM(国境炭素税)を課す方針も打ち出しました。
火力発電の割合の多い日本としては、無視できないEUの動きです。
EUが2035年にガソリン車販売禁止の方針
欧州連合(EU)の欧州委員会は14日、温暖化ガスの大幅削減に向けた包括案を公表しました。
ハイブリッド車を含むガソリン車など内燃機関車の新車販売について2035年に事実上禁止する方針を打ち出したのです。
環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける国境炭素調整措置(CBAM)も23年にも暫定導入する計画です。
欧州委案が成立するには、原則として加盟国との調整や欧州議会の審議を経る必要があります。
企業や域外国の反発も避けられそうにありません。
目的は温暖化ガスの排出量削減
欧州委の政策パッケージは、30年までに域内の温暖化ガスの排出量を1990年比55%減らす目標を実現するための対策です。
2030年目標は50年に排出実質ゼロにする目標の中間点となります。
自動車業界の反発は必至
対応を迫られる自動車業界は反発を強めます。
ドイツ自動車工業会のヒルデガルト・ミュラー会長は7日、「35年にCO2をゼロとすることはハイブリッド車を含むエンジン車の事実上の禁止だ。技術革新の可能性を閉ざし、消費者の選ぶ自由を制限する。多くの雇用にも響く」と訴えました。
トヨタ自動車幹部は「戦略練り直しは避けられない」と話します。
欧州委が導入を目指すCBAM(国境炭素税)とは
制度案では、EU域外の事業者が環境規制が十分でない手法でつくった対象製品をEUに輸出する場合、EUの排出量取引制度に基づく炭素価格を支払う必要があります。
製品の製造過程における排出量に応じた金額を算出し、事業者に負担させのです。
EU域内外の負担が等しくなるという考えから作られました。
当初は鉄鋼、アルミニウム、セメント、電力、肥料の5製品を対象とする方針です。
23年からの3年間を移行期間として暫定的に始め、事業者に報告義務などを課します。
26年から本格導入され、支払いが発生する見通しです。
欧州委は30年時点でCBAMに関連する収入を年91億ユーロ(約1・2兆円)と見込んでいます。
第三国にEU並みの気候変動政策を要求するもの
欧州連合(EU)の欧州委員会が14日公表した国境炭素調整措置(CBAM)案は、第三国にEU並みの気候変動政策を要求するものです。
中国やロシアをはじめ、日米なども対象になる可能性があります。
EUは緩やかに導入を進めることで他国との対立を避けたい考えですが、貿易摩擦につながるリスクがあります。
日本への対応は不透明
EU高官は6月、日本経済新聞の取材に「2050年に温暖化ガス排出の実質ゼロを宣言した先進国を念頭に置いた制度ではない」と述べました。
しかし、日米などの企業のすべての製品が対象外になるかは不透明な面が残ります。
日米などは全国的な排出量取引制度を持たないため、EUと同等の環境対策をしているとデータで示すことが難しい可能性があります。
EUでは排出量取引に基づいて、二酸化炭素(CO2)を出す権利の価格が日々公開されています。
データで示せなければ、制度の対象になるリスクが高まります。
日本の製造業は痛手を被る
日本経済研究センターは欧米が国境炭素調整を導入した場合の日本の製造業への影響について、CO21トンあたり50ドル(約5500円)の場合でEU向けに年2・5億ドル、米英に年5・67億ドルを支払う可能性があると試算しています。
EU内にも貿易摩擦につながりかねないと不安視する声はあります。
とりわけ米国とはトランプ前政権時代には通商問題を巡って関係が冷え込みました。
フォンデアライエン欧州委員長は6月のバイデン大統領との首脳会談でCBAMを巡って意見交換することに同意するなど、一定の配慮を見せました。