太平洋を囲む11カ国で構成されるTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に動きが出てきました。
台湾と中国が加盟申請を発表したのです。
中国は台湾を国と認めておらず、中国大陸と台湾が1つの国に属するという「一つの中国」を主張しています。
そのため、中国は台湾が国際機関に加盟することをことごとく反対してきました。
台湾のTPP加盟は各国のエゴが複雑に絡むことになり、単純にはいきません。
日本の対応が気になります。
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アメリカ「米中対立は数十年続く、中国のTPP加盟阻むべき」
マクマスター元米大統領補佐官(国家安全保障担当)は2021年9月24日、米中の対立は長期にわたり、数十年続くこともあり得るとの予測を示しました。中国による環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟は阻むべ ...
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台湾がTPP加盟申請発表、「中国が先なら不利に」
台湾当局は2021年9月23日、環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟に向け、申請手続きを行ったと正式に発表しました。
加盟申請は22日午後に実施。中国の強い反発のなか、TPP加盟に強い意欲をみせました。
TPPを巡っては、中国が16日に加盟申請を行ったと公表したばかりです。
台湾としては中国に加盟申請で大きく遅れれば、加盟が困難になるとみて申請手続きを急いでいるのです。
台湾の通商交渉トップである鄧振中・政務委員は記者会見で「中国はいつも、台湾の国際社会との連携を阻もうとしてきた。もし中国が先にTPPに加盟してしまえば、台湾のTPP参加は不利になることが予想された」と述べました。
TPP加盟国は台湾の貿易総額の24%以上を占める
鄧振中・政務委員は「TPP加盟国は台湾の貿易総額の24%以上を占める。今年、(閣僚級会合のTPP委員会の)議長国である日本とは非常に緊密な関係にあり、今こそ加盟すべき時が来た」とも語った。
蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は、2016年の就任時からTPP加盟を悲願としてきました。
同氏は23日、ツイッターに「われわれは全てのルールを受け入れる用意がある」と投稿しました。
台湾経済は中国に大きく依存しています。統一圧力を強める中国からの脱却を急ぐには、TPPに加盟し、中国への経済依存度を引き下げる必要があると判断しているのです。
台湾、TPP加盟申請発表――中国「断固反対」
中国外務省の趙立堅副報道局長は23日の記者会見で、台湾の環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟申請に強く反発!
「台湾がいかなる公的な性質を帯びた協定や組織に参加することにも断固反対する」と述べました。
台湾の加盟阻止に向けた関係国への外交的な働きかけを強めるとみられています。
趙氏は、中国大陸と台湾が1つの国に属するという「一つの中国」が「国際社会における普遍的な共通認識だ」と強調しました。
そのうえで「中国はいかなる国も台湾と公的な交渉をすることに断固反対する」とも語りました。
TPPは日本やオーストラリアが主導しています。
米国との同盟国が多い経済圏に台湾が先に加わると、台湾を「国」として扱う動きが加速しかねないとの懸念が中国側にはあるのです。
日本は台湾のTPP加入を「歓迎」
環太平洋経済連携協定(TPP)は中国に加えて台湾も加盟を申請したことで、自由主義と権威主義の覇権争いの舞台の様相を呈してきました。
茂木敏充外相は23日、台湾の申請を「歓迎したい」と表明したが、加盟国の対応には温度差がにじみます。
本来は対中包囲網を期待されたTPPにとって試練となります。
離脱した米国が身動きをとれない中、自由主義陣営の一角として日本は重責を担うことになりそうです。
訪米中の茂木氏は23日(現地時間22日)のオンライン記者会見で「台湾は自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有し、密接な経済関係を有する極めて重要なパートナーだ」と強調しました。
「台湾がTPPの高いレベルを完全に満たすかどうかしっかりと見極める必要がある」とも説明しました。
16日に加盟申請した中国には「歓迎」といった表現は使わず、「高いレベルを満たす用意ができているかしっかり見極める必要がある」と述べるにとどめていました。台湾への対応との差が浮き彫りになった格好です。
TPPには中国を押さえ込む狙いがある
TPPは高水準の自由化や透明性の高い投資ルールなどを共有する巨大経済圏をつくり、自国に都合の良いルールをめざす中国を押さえ込む狙いがあります。
米国の離脱で盟主が不在となった隙をついて中国が加盟申請しているのです。
加盟が認められれば、その後の新規加盟に拒否権を持つことができます。
台湾の通商交渉トップは23日の記者会見で、中国が先に加盟すれば台湾が「不利」になるとの判断が加盟申請につながったと表明しました。
中国はオーストラリアが新型コロナウイルスの発生源について独立調査を求めたことに反発し、同国からの輸入品に高関税を課したり、輸入を制限したりしています。
自由な国際秩序を軽視する中国を受け入れれば、TPPの本来の役割がゆがむおそれがあります。
TPP加盟には現メンバー国の全会一致の同意が必要
台湾海峡を巡って中台対立が緊迫する中、安全保障の観点からの判断も問われます。TPP加盟には現メンバー国の全会一致の同意が必要となります。
加盟国の多くは様子見姿勢です。カナダの外務省は22日、台湾の申請について日本経済新聞の取材に「参加には高い基準と野心的な市場アクセスの約束を満たし、順守することが求められる」との説明にとどめました。
オーストラリアのテハン貿易・観光・投資相も23日、「他の加盟国と協力し、総意に基づいて台湾の申請を検討する」と述べるにとどめ、姿勢を明確にするのは避けました。
中国の加盟申請に歓迎の意向を表明したシンガポールとマレーシアは、台湾の申請に関しては態度を明らかにしていません。
中国側は中国大陸と台湾が1つの国に属するという「一つの中国」を唱えています。
台湾の加盟を阻止するため、関係国への外交的な圧力を強める公算が大きいです。
TPP参加国は自由なルールの堅持で結束を堅持できるかどうかが試されています。
日本は米国にTPP復帰を促す
外務省の発表によると、茂木氏は記者会見に先立つブリンケン米国務長官との会談で米国にTPP復帰を促しました。
しかし今のところ望み薄です。
バイデン米大統領が支持基盤として重視する労働組合はTPPに反対しています。
野党・共和党でも復帰に否定的な意見が根強い。与党・民主党の苦戦が予想される22年秋の中間選挙を前に、あえて危険を冒す政治的な余力は乏しいです。
サキ大統領報道官は再加盟の交渉段階には「明らかに達してない」と語ります。加盟国が中台の間で中国側になびかないよう、外部から外交で働きかけるしかありません。
自由主義陣営が主導する国際秩序を守る立場の日本は重責を負うことになりそうです。
訪米中の茂木氏はTPP加盟交渉中の英国のトラス外相とも会談し、加盟交渉について話し合いました。
伝統的に自由貿易の志向が強い英国の加盟交渉なども通じ、高水準の貿易自由化や透明性あるTPPのルールを強固にすることで、中国に対しても妥協しない姿勢が求められます。
TPP、覇権争いの場に――米国の復帰こそ先決
中国と台湾の政治対立が環太平洋経済連携協定(TPP)に持ち込まれれば、透明で公正な通商ルールを主導するという本来の機能をそがれます。
中台加盟への賛否をめぐって11カ国のメンバーが割れ、TPPの結束が空中分解することは避けなければならなりません。
TPP加盟国は交渉を急がず、慎重に対応するのが賢明です。
その一方で、日本はバイデン政権と米議会に改めて強く働きかけ、まずは米国のTPP復帰への道筋を付けることが先決です。
米政権や議会内ではなお復帰への慎重論が強く、説得のハードルは高いです。
ただ、中国の加盟申請は、米側に再考を迫る好機になります。
TPP加入には全加盟国の同意が必要で、中国が先にメンバーになったら米国は参加への道を完全に閉ざされかねないからです。
9月上旬、米英の当局者や元高官、識者らを中心とする非公開の国際会議が開かれました。
そこで印象的だったのは米国が置き去りにされ、TPPが中国色に染まっていきかねないという議論です。
そのようなシナリオは米国にも悪夢です。日本をはじめとするTPP主要国はバイデン政権の任期中に米国を呼び戻し、交渉の態勢を整えたうえで、中台の参加問題に取り組むのが上策です。
経済面だけ考えれば、中台を早く迎え入れる利点は大きいです。
しかしTPPはただの経済圏ではありません。事実上、中国をにらんだ「ルール同盟」の顔を持ちます。
関税を下げ、サービスや投資の自由化を進め、データ流通や知的財産でも透明で公正なルールを定める。その上で、同水準のルール受け入れを中国に促していくことが当初の目的なのです。
台湾が名乗りを上げたことで、中国はメンバー国へのロビー活動をさらに急ぎ、早期加盟を果たそうとするにちがいありません。
TPP側が決してやってはならないのは、十分に加入条件を満たしていないにもかかわらず中国を特別扱いし、参加を認めてしまうことです。
そうなればTPPは「中国スタンダード」の枠組みに変質してしまいます。
門前払いすべきではないが、交渉のハードルを下げることは禁物なのです。
台湾は中国よりTPP基準を満たしやすいが、加入のタイミングは難しい。
中国が先になれば、台湾の参加は絶望的になります。
逆に台湾が先になれば中国が猛反発して軍事緊張が高まり、台湾の安定も損なわれかねません。
TPP内では「中台の同時加盟案」も聞かれます。これも一案でしょう。
台湾、乏しい後ろ盾、TPP加盟申請、米不在で
台湾当局は23日、環太平洋経済連携協定(TPP)加盟に向けて申請手続きを実施したと発表しました。
通商交渉トップである鄧振中・政務委員は記者会見で「世界貿易機関(WTO)加盟以降で最も重要な通商政策になる」と語っりました。
しかし米国がTPPから離脱した現在、台湾の加盟を強力に後押しできる国は乏しいのが実情です。
台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)政権はかねて中国に依存した経済からの脱却を図るためTPP加盟に意欲を見せていました。
加盟国と水面下で協議も持ち、賛成票を得るための根回しを続けている段階にあったのです。
TPP加盟国には、中国と強い貿易関係で結ばれる南米のチリやペルーや東南アジアの国々が多く含まれます。
このため台湾は慎重に各国と話を進め、大方の同意が得られてから、正式にTPPの加盟申請を行う段取りを描いていたのです。
中国の妨害が予想される
台湾の加盟には大きな困難が伴います。
中国が今後、台湾の加盟を阻止するために、経済力をテコに南米や東南アジアなどの加盟国に対する働きかけを強める可能性が高いからです。
22日夜、台湾のTPP加盟の申請の報道が伝わると、即座に中国共産党系メディアの環球時報(電子版)が「かく乱だ」などと批判しました。
中国の行動をけん制し、台湾の加盟を後押しすることも予想された米国がTPPに参加する意欲を失ってしまったことも台湾にはマイナスになっているのです。
日本と台湾の問題点
TPPを主導する日本とも大きな問題を抱えています。
台湾は東日本大震災からの10年余り、福島県や茨城県など5県の農産品の輸入を全面禁止にしてきました。
台湾では今でも5県産の農産品の輸入に対する市民の反対が根強いです。
TPPへの加盟のために輸入解禁を強行すれば、反対運動が起こって政権運営を揺るがしかねない事情があります。