2023年7月7日、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、2022年度の運用実績を公表しました。
運用益は2兆9536億円の黒字で3期連続の黒字となり、累積収益額は108兆円です。
世界的に政策金利の引き上げが進むなど金融市場は荒波に揉まれていますが、黒字のけん引役となったのは資産全体の25%を占める国内株の上昇です。
値下がりした債券を株高で補った形で、分散投資の効果が出ています。
GPIFは運用資産が200兆円を超えている世界最大規模の機関投資家です。
年金積立金を株式や債券などに投資しています。
詳しく解説していきます。
動画でも解説しています
年金積立金の累積収益額は22年間で108兆円の黒字
出典:年金積立金管理運用独立行政法人
年金積立金の運用を開始した2001年度以降、22年間の累積収益額は108兆円を超えています。
資産別の運用成績は、国内株式が2兆7288億円、外国株式が1兆1327億円の黒字、国内債券が8517億円、外国債券が562億円の赤字でした。
国内株式の収益が5年ぶりに4資産の中で最大となりました。
国内と外国の株式、債券でそれぞれ25%ずつを目安
インフレ対策で多くの中央銀行が金融引き締めを進め、金利が上昇(債券価格が下落)しました。
一方、日本株は2023年から外国人投資家を中心に買いが集まり、日経平均株価は3月末から7%上昇しました。
円安の進行も資産価値を4%程度押し上げました。
GPIFの運用は値動きが異なる資産を組み合わせ、安定的な収益確保を目指しています。
具体的な資産構成割合(ポートフォリオ)は国内と外国の株式、債券でそれぞれ25%ずつを目安にしています。
いずれかの資産が運用を下支えしやすいポートフォリオ
金融市場では好況時に投資家がリスクを取るため株高・債券安、不況時には逆に株安・債券高になる傾向があります。
相場環境が急変しても、いずれかの資産が運用を下支えしやすいポートフォリオになっているのです。
たとえば2019年度は新型コロナウイルスの感染拡大を背景に内外の株式がそれぞれ1割程度下落しましたが、外国債券がプラスとなったことで、運用成績全体のマイナス幅を抑制できました。
年金基金は値上がりしたら売却している
GPIFは運用資産が200兆円に上るため、売買が市場に与える影響も大きいです。
足元で日経平均をはじめ日本株の上値が重くなっている一因は、GPIFが値上がりした株を売却しているからとみられています。
GPIFは価格変動で資産構成上の割合が高くなった資産を売り、反対に低くなった資産を買う「リバランス(資産の再配分)」を定期的に実施しています。
4月から6月にかけて国内株式が14%上昇しました。
他の資産の価格変動を考慮すると、1.4兆円程度の国内株式を売った可能性があります。
反対に比率が下がった国内債券には8000億円程度の買いが入ったとみられています。
1兆円の売りは国内株式相場を2.4%程度押し下げる
野村証券の試算によると、1兆円の売りは国内株式相場を2.4%程度押し下げます。
日経平均の場合、1.4兆円の売りは単純計算で1100円程度株価を抑制します。
年金などの動向を反映する信託銀行の国内株の売り越しが続いており、株価上昇に伴うリバランスを進めている可能性があります。
まとめ
年金積立金の運用を開始した2001年度以降、22年間の累積収益額は108兆円を超えています。
資産別の運用成績は、国内株式が2兆7288億円、外国株式が1兆1327億円の黒字、国内債券が8517億円、外国債券が562億円の赤字でした。
値下がりした債券を株高で補った形で、分散投資の効果が出ています。
GPIFの運用は値動きが異なる資産を組み合わせ、安定的な収益確保を目指しています。
具体的な資産構成割合(ポートフォリオ)は国内と外国の株式、債券でそれぞれ25%ずつを目安にしています。
GPIFは「22年度は振幅の激しい1年だったが、分散投資効果が発揮された。市場にインパクトを与えないようにリバランスするのは難度の高い作業だった」と振り返りました。