2022年の貿易収支が過去最大の19兆9713億円の赤字になりました。
円安と資源高に加え、輸出が伸び悩んでいます。
化石燃料への依存や、新たな基幹産業を育ててこなかった結果です。
貿易赤字は定着する可能性があります。
これまで、日本の経常収支の黒字化を引っ張っていたのは物の輸出でしたが、現状は海外への投資の配当や利子などに移ってきています。
しかし、海外収益の還流は不十分で、国内産業の成長に繋がるかは不透明です。
詳しく解説していきます。
比較可能な1979年以降で最大の赤字額
貿易収支は輸出額から輸入額を引いたもので、赤字は2年連続となりました。
2014年の12兆8160億円を上回り、比較可能な1979年以降で最大の赤字額です。
2022年までの10年間で貿易赤字は7回あり、通算の収支は44兆4340億円の赤字です。
かつては貿易黒字が当たり前で、1998年には過去最高の13兆9913億円を記録しました。
過去10年では最も多い2016年でも3兆9937億円止まりです。
輸入額の増加で赤字が定着
民間エコノミストの予測では、2023年度は17兆800億円、2024年度も13兆3700億円の貿易赤字が続くとみられています。
赤字が定着するのは構造的な要因によるものです。
エネルギー資源を海外に依存する体質
赤字が定着する要因の一つ目が、エネルギー資源を海外に依存する体質がかわらないことです。
2022年の全体の輸入額は前年比39.2%増の118兆1573億円と、初めて100兆円を超えました。
原油や液化天然ガス(LNG)、石炭といった鉱物性燃料が96.8%増の33兆4755億円となり全体の28.3%を占めました。
エネルギー供給に占める化石燃料の比率は83.2%
日本の1次エネルギー供給に占める化石燃料の比率は2021年度時点で83.2%です。
再生可能エネルギーの普及遅れと原発の再稼働の停滞で、震災前の10年度より2ポイント高くなっています。
円安が輸入価格の上昇に拍車をかけている
一時1ドル=150円台まで進んだ32年ぶりの円安が、原油価格の上昇に拍車をかけています。
2022年の原油のドル建て価格の上昇率は前年比47.6%でした。
円建てでは76.5%上がり、過去最高の1キロリットル当たり8万4728円となりました。
ウクライナ危機を受け、世界ではエネルギー安全保障の強化の動きが相次いでいます。
自国産エネルギーを増やすには、再生エネ拡大や原発再稼働などで輸入に頼る化石燃料を減らす必要があります。
輸出額の減少で赤字が定着
赤字が定着の要因の二つ目が、輸出の伸び悩みです。
2022年の輸出額は過去最高の98兆1860億円となりましたが、伸び率は18.2%にとどまっています。
荷動きを示す数量指数は前年比1.9%の低下です。
電気機器は生産の海外移転や事業縮小が進んでいる
半導体不足といった要因で電気機器などの生産に支障が出た2022年は、歴史的な円安にもかかわらず輸出が振るいませんでした。
本来、円安は輸出を増やすとされています。
象徴とも言えるのが、スマートフォンや半導体などの電気機器です。
2022年は輸出が17兆3377億円、輸入が17兆2560億円とほぼ同額でした。
貿易黒字は817億円にとどまり、輸入超過が目前に迫っています。
1988~2008年は6兆~8兆円程度の黒字で推移していました。
かつての日本は、半導体や液晶テレビなどで日本メーカーに勢いがありました。
2008年のリーマン・ショックを境に生産の海外移転や事業縮小が進み、輸出が増えにくい体質になっています。
貿易立国と言われていたのは「今は昔」となっています。
医薬品は1兆4703億円の赤字
2022年の化学製品の貿易収支は、1兆4703億円の赤字でした。
新型コロナウイルス関連などの医薬品輸入が増えた結果です。
30年前は2240億円の黒字でした。
自動車などは、電気自動車への技術トレンドに乗り遅れると電気機器の二の舞に
自動車などの輸送用機器と、一般機械は2022年にそれぞれ15兆6713億円、9兆6327億円の黒字でした。
しかし、電気自動車(EV)の米テスラがトヨタ自動車を時価総額で上回るなど、業界の変動が起きています。
電気自動車への技術トレンドに乗り遅れると電気機器の二の舞になる可能性もあります。
経常収支(1~11月)は11兆4100億円の黒字
貿易収支に海外との投資やサービスのやり取りなどを加えた経常収支をみると、2022年1~11月は11兆4100億円の黒字でした。
貿易収支の大幅な赤字で前年同期比46%減りましたが、海外子会社の配当などの第1次所得収支が約33.5兆円に伸びて黒字を維持しました。
日本は投資立国の色彩を強めています。
しかし、海外の投資収益は国内に十分還流していない問題があります。
2021年の実績でみると、第1次所得収支の3割以上は「再投資収益」と呼ばれる海外子会社の内部留保になっています。
こうした収益を国内に循環したり、伸び悩んでいる外国企業からの対日直接投資を増やしたりしないと国内産業の成長につながりません。
まとめ
2022年の貿易収支が過去最大の19兆9713億円の赤字になりました。
民間エコノミストの予測では、2023年度は17兆800億円、2024年度も13兆3700億円の貿易赤字が続くとみられています。
赤字が定着するのは構造的な要因によるものです。
赤字が定着の要因の一つ目が、エネルギー資源を海外に依存する体質がかわらないことです。
要因の二つ目が、輸出の伸び悩みです。
2008年のリーマン・ショックを境に生産の海外移転や事業縮小が進み、輸出が増えにくい体質になっています。
貿易立国と言われていたのは「今は昔」となっています。