韓国の元徴用工訴訟は、2018年に最高裁が日本企業に賠償を命じてから2021年10月30日で3年となります。
韓国の民法は被害者が損害を認識した時点から3年で請求権が消滅すると規定しており、追加訴訟には歯止めがかかりそうです。
一方で確定判決を巡っては日本企業が韓国内に持つ資産を売却して賠償にあてる現金化が迫っていますが、解決策は見えてきません。
徴用工訴訟問題とは
徴用工訴訟問題とは、第二次世界大戦中日本の統治下にあった朝鮮などで日本企業の募集(自由募集)や朝鮮総督府が各地方自治体にノルマを化して人員をあつめた官斡旋、総督府が対象者個人に直接「徴用令状」を発給して労務者をあつめた徴用等により動員された元労働者及びその遺族による訴訟問題のことです。
元労務者は、奴隷のように扱われたとして、現地の複数の日本企業を相手に多くの人が訴訟を起こしています。
日本の徴用工への補償について、韓国政府は1965年の日韓請求権協定で「解決済み」としてきましたが、大法院は日韓請求権協定で個人の請求権は消滅していないとしたため、日本政府は日韓関係の「法的基盤を根本から覆すもの」だとして強く反発しました。
当時の首相であった安倍晋三首相は「本件は1965年(昭和40年)の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決している。今般の判決は国際法に照らしてあり得ない判断だ。日本政府としては毅然と対応する」と発言しました。
日韓請求権協定には、両国に紛争が起きた際は協議による解決を図り、解決しない場合は「仲裁」という手続きが定められています。
日本政府はこの手続きにより解決しない場合、国際司法裁判所への提訴も視野に入れています。
訴訟の数は70件余り、原告は1000人超
韓国大法院(最高裁)は18年10月30日と11月29日、日本製鉄(当時新日鉄住金)と三菱重工業に対する計3件の賠償命令を確定させました。
この判決の後、韓国では追加訴訟の提起が相次ぎました。
同年12月の光州高裁が10月30日を起点に「原則6カ月、最長3年」の間は新たな提訴が可能だとする判断を示したからです。
原告支援団体によると確定判決の後に提起された訴訟は少なくとも55件あります。
18年以前に提訴された15件と合わせると現時点では70件余りの訴訟が係争中です。
生存者や遺族ら原告の数は1000人超にのぼります。
裁判所が時効を理由に訴えを退けるケースが相次ぐ
ところが、最近は韓国の裁判所が時効を理由に訴えを退けるケースが相次いでいます。
ソウル中央地裁は8月と9月、元徴用工の遺族が三菱マテリアルなどを相手取った2件の訴訟で「提訴時にはすでに請求権が消滅していた」として原告の訴えを棄却しました。
判決は時効の起点を18年10月ではなく、最高裁が「個人請求権は消滅していない」とする見解を示した12年5月だと判断しました。
棄却された2件の訴訟はそれぞれ17年2月と19年4月に提起されていたものです。
日本企業の資産を現金化しないかは不透明
時効により原告が勝つ可能性が狭まり訴訟が際限なく増え続ける事態への懸念は小さくなりました。
もっともこれを機に韓国政府が最も深刻な日韓間の懸案である企業資産の現金化を阻止する策をとるかどうかは不透明です。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領は今年1月の記者会見で「企業資産の現金化は韓日関係に望ましくない」と発言しました。
日本との外交協議を訴え東京五輪に合わせた来日も検討しましたが、菅義偉前首相との首脳会談は一度も実現せずに終わりました。
韓国「1965年請求権協定の解釈に違いがある」
文氏は今月15日に岸田文雄首相と初の電話協議をした際に「1965年請求権協定の適用範囲を巡る法的解釈に違いがある」と発言しました。
同協定に基づき、徴用工問題は「解決済みだ」とする立場の日本とは埋めがたい溝があります。
韓国与党の一部には、韓国政府が賠償金を肩代わりする「代位弁済案」があります。
2年前に当時の文喜相(ムン・ヒサン)議長が国会提出した法案と同じ考え方です。
しかし、これには原告側が強く反発しているため足元の実現性は乏しいです。
大田(テジョン)地裁は9月、三菱重工業訴訟で原告が差し押さえた同社の特許権と商標権の一部を売却し、原告2人に対する賠償金を確保するよう命じました。
同社は即時抗告しましたが、現金化のタイミングは裁判所の判断に委ねられており時間の問題です。
28日に記者会見した原告側弁護士は「6カ月から8カ月で即時抗告は最高裁に棄却され、競売の手続きが取られるだろう」との見方を示しました。
企業側に和解協議に応じるよう求めています。
文氏の任期は22年5月までで、原告側の見立て通りなら任期内の現金化があり得ます。
司法手続きが遅れた場合は、解決策の検討が次期政権に持ち越される可能性があります。