半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が日本での工場建設計画を明らかにしました。
半導体産業の再建に取り組む日本にとっては願ってもない話です。
1兆円規模の投資計画に対し、日本政府も支援を明らかにしています。
支援の額は、その半分の5000億円になりそうです。
TSMCの工場進出はどのような意味を持つのか解説していきます。
日本で製造される半導体の種類
TSMCの新工場は熊本県に建設される見通しです。顧客であるソニーグループの工場近辺となる公算が大きいです。
総投資額は1兆円程度とされ、政府が補助を明らかにしています。
製造するのは回路線幅が22ナノ(ナノは10億分の1)メートルと28ナノメートルの半導体で、画像センサーの演算処理などを想定しているとみられます。
回路の線幅は小さいほど半導体の性能が高くなります。
TSMCは現在、台湾の工場で5ナノメートル技術を使ったiPhone用のプロセッサー(演算処理装置)を生産しています。
日本で製造されることによって安定供給されるようになる
TSMCは台湾に主力工場を集中させてきました。ただ、足元では各国政府から拠点誘致を受けています。
新型コロナウイルス禍による供給網の混乱や半導体不足を受け、経済安全保障が切迫した課題となっているためです。
TSMCは2021年から3年で1000億ドル(約11兆4000億円)の投資を予定しています。
6月には台湾以外では最も先進的な工場を米アリゾナ州で着工、ドイツでの工場建設も検討しています。
今回発表した日本工場はこの1000億ドルの計画に含まれていません。
岸田文雄新首相は半導体産業の再建を掲げ、ハイテク産業を支援する枠組みを立ち上げようとしています。14日夜の記者会見ではTSMCの日本進出で「我が国の半導体産業の不可欠性と自律性が向上し、経済安全保障に寄与する」と述べました。
TSMCの工場が日本にあることで、半導体の安定供給が期待されます。
TSMCが日本で半導体工場を建設する理由
台湾では水や電力、土地の確保などについて当局からサポートを受けています。
大量の人材と成熟した供給網もあり、低い運営コストを維持してきました。
業界幹部は日本の新工場について、台湾に同様の工場を建設する場合に比べ2~3倍のコストがかかる可能性があるとしています。
しかし、TSMCは成長のために、台湾以外の工場展開も必要としています。
台湾は今年初めに水不足と電力不足に見舞われるなどエネルギー不足が発生しているためです。
新工場は半導体不足を解消するか
足元の需給逼迫に対する即効薬とはなりません。
アリゾナ工場での量産開始は24年になる予定。日本工場も同様です。
現在、最も供給が不足している半導体は電源管理などの低価格品が多く、幅広い企業が製造しています。
多くの拠点がある東南アジアでは、コロナ禍による操業停止が相次ぎました。
中国の電力制限もあり、供給網が圧迫されています。
半導体需給では深刻なミスマッチが起きています。
一部の半導体は十分に供給されていますが、一部の半導体は深刻な不足状態にあります。
TSMCも民生需要の減速を受け、今後、受注や価格などが修正される可能性があると警告してます。
台湾の日本進出により、韓国企業の売り上げが落ちる
出典:ビジネス+IT
半導体売上のランキングは、
1位インテル(米国)
2位サムスン電子(韓国)
3位TSMC(台湾)
4位SKハイニックス(韓国)
となっています。
日本国内で半導体の製造が増産されるようになれば、当然、韓国で製造される半導体が日本国内で消費される量が減ることになり、韓国としては避けたいところです。
また、現在は半導体不足により、自動車産業等さまざまな分野の製造が制限されています。
日本国内で半導体不足が解消されれば、それらの産業の競争力が回復することになり、日本と競合する韓国の自動車産業は痛手を被ることになりそうです。
このような推測がされており、韓国は日本のTSMCへの補助金を問題視して向上誘致を反対しています。
日本の補助金は問題ないのか?
日本経済新聞は、食料やエネルギーのように必須財となっている半導体を市場原理に任せず、国が責任を持って確保するというのが日本政府の政策方向だが、経済安全保障を理由にした巨額の補助金が市場を歪曲させる恐れがあるため、WTO規定違反議論につながる可能性があると指摘しました。
WTO協定違反とされる「レッド補助金」は、輸出を支援する補助金と国産部品や材料を使用する条件で支援する補助金があります。
日本政府がTSMCに与えようとしている補助金は、レッド補助金ではありませんが、ケースバイケースで違法性を判断する「イエロー補助金」に該当するというのが通商法法専門弁護士の概ねの見解というものです。
日経は、日本政府の補助金を受けた工場で生産された半導体を低価格で日本国内に供給した場合、半導体メーカーを置く韓国などが日本への輸出が減り、被害を受けているとして提訴する可能性があり、TSMCが日本の工場生産品を低価格で輸出する場合にも、提訴されるリスクがないと見ることができないと分析しました。
しかし、イエロー補助金の違反に認定された事例が、現行制度下では数件にとどまっているのが現実であり、提訴した国の産業に発生した損害と補助金の因果関係を立証することが容易ではないという指摘が出ています。
日経は、米国と欧州連合(EU)は、中国の半導体産業似に対する莫大な補助金を問題視してきたが提訴していないのは、そのような背景と説明しました。