中国の財政赤字が急拡大します。
2025年には10兆元(約170兆円)を突破し、21年の2・3倍になる見通しです。
原因は税収の伸びが鈍るほか、22年から中国版「団塊世代」の大量退職も始まり、年金や医療の給付が増えためです。
健全とされてきた財政の急速な悪化は中国経済の新たな火種になります。
発表したのは政府系シンクタンク中国財政科学研究院です。
過去の税収や財政支出、将来の経済成長率見通しをもとにはじきました。
増減税や制度改革の影響は盛り込んでいません。
歳出入は一般会計にあたる一般公共予算ベースで、特別会計にあたる基金からの繰り入れなどは考慮していません。
-
中国の借金や経済について学べるおすすめの本6選【2024年版】
中国は2027年にGDPが米国を抜き世界一になるとも言われています。とてつもない経済成長をしていますが、その実態はどうなのでしょうか?この記事では、中国の借金や経済について学べるおすすめの本を紹介して ...
続きを見る
財政収入は14%増だが、財政支出は34%増
25年の財政収入は24兆6384億元で、21年から14%増えます。
一方で、財政支出は35兆2862億元となり、同34%膨らむ。支出の伸びが収入を上回るため、25年の財政赤字は同2・3倍の10兆6478億元に達します。
別の政府系シンクタンク、国務院発展研究センターが20年8月に公表した名目国内総生産(GDP)の予測値と比べた赤字比率は、21年の4・2%から25年には7・0%に跳ね上がります。
中国経済が新型コロナウイルスの打撃を受けて税収が減った20年(6・2%)を上回り、5年ぶりに最高を更新する見通しです。
財政赤字は23年以降、年3割前後で拡大
財政赤字は23年以降、年3割前後で拡大し、悪化ペースが速まります。
経済成長率の鈍化に伴う税収の伸び悩みが一因です。
試算は「25年までの実質GDPは年5%の増加率を保つ」と仮定しています。
中国人民銀行(中央銀行)は、21年時点で5・7%ある潜在成長率が25年に5・1%まで下がると推計しています。
財政科学研究院の予測も徐々に減速していく前提とみられます。
対照的に、社会保障など硬直的な支出は膨らみます。
財政支出は7~8%の伸びが続きます。
原因は、団塊世代の男性が2022年から60歳の定年
中国では多数の餓死者を出した大躍進政策後の1962年からベビーブームが訪れました。
62~66年の合計出生数は、61年までの5年間より6割の多いです。
中国版「団塊世代」の男性が2022年から60歳の定年を迎え、年金や医療の給付が財政を圧迫します。
新型コロナ対応などの衛生健康関連の支出も増えます。
急速な高齢化で社会保障改革などが急務
財政悪化が続けば、中国共産党政権の支配を支えてきた軍事や治安維持の予算にも影響が及びます。
機械的な試算とはいえ財政赤字の急拡大という将来像を示した背後には、歳出の抑制に向けて社会保障改革などが急務だと訴える財政当局の思惑も透けて見えます。
急速な高齢化で、政府は法定退職年齢の引き上げを検討しています。
今夏、多くの地方政府が各界の意見を聞く座談会を開きました。
中国メディアでは学者らが制度改正の必要性や段階的な引き上げ方法を解説する記事も多いです。
国民の反発は必至
ただ庶民の理解が広がっているとは言えない状況です。
中国版ツイッターの微博(ウェイボ)では「年金支給を減らしたいだけの政策なんて賛成できない」といった反対論も目立ちます。
就職難に直面する若者は職探しがより困難になると懸念しています。
祖父母を含め家族総出で子供の面倒をみる「自助」の概念が根付く中高年も「誰が孫の面倒をみるのか」と心配しているのです。
習近平(シー・ジンピン)指導部は22年秋の党大会で3期目入りを狙っています。
社会保障費の抑制につながる不人気政策は、庶民の反発を強めかねません。
一党支配の中国も難しい対応を迫られています。
-
中国の借金や経済について学べるおすすめの本6選【2024年版】
中国は2027年にGDPが米国を抜き世界一になるとも言われています。とてつもない経済成長をしていますが、その実態はどうなのでしょうか?この記事では、中国の借金や経済について学べるおすすめの本を紹介して ...
続きを見る