政府・与党は装備品の調達目標などを定める5年間の中期防衛力整備計画(中期防)を10年の計画に変える検討を始めました。
2023年度から10年の計画にし名称は「中期」を削り「防衛力整備計画」にします。
台湾有事などに備え、抜本的な防衛力強化が必要なため長期の計画に改めます。
詳しく解説していきます。
動画でも解説しています
10年といった長期間で日本の防衛を考える
政府は12月、中期防を含め防衛に関する3つの文書を改定します。
残り2つは安全保障の基本方針を示す国家安全保障戦略、同戦略に基づき防衛力の水準を定める「防衛計画の大綱(防衛大綱)」です。
どちらも10年ほどの期間を想定してつくります。
現在の中期防はおよそ10年を対象にする防衛大綱に沿って、5年分の主要装備の数量などを示しています。
防衛大綱と国家安保戦略に期間をあわせれば大方針から個別の調達まで一貫性が高まります。
政府の有識者会議は22日、防衛費増に関する報告書を岸田文雄首相に提出しました。
「10年後といった長期間での強化策の内容や規模を『見える化』することが国民の理解を得るのに重要だ」と指摘しています。
前半5年と後半5年で重点分野を変える方針
新たな防衛力整備計画は前半5年と後半5年で重点分野を変える方針です。
首相は防衛力を5年以内に抜本的に強化すると唱えています。
最初の5年で日本への侵攻を阻止・排除する能力、その後に遠方での対処能力や次世代の装備を獲得したい考えです。
前半の5年の柱は継戦能力の増強
前半の5年の柱は継戦能力の増強です。
弾薬の数を増やし、部品不足を解消します。
防戦した際に一定期間戦える基礎体力となります。
日本は弾道ミサイル防衛に使う迎撃ミサイルが必要量の6割ほどしかないとの試算もあります。
相手のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」も検討中です。
政府・与党で能力を保有すると決めれば、その装備として長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」を前半5年に調達します。
米国製巡航ミサイル「トマホーク」の購入を検討しています。
国産の「12式地対艦誘導弾」は射程を1000キロメートル超に伸ばし、26年度には地上発射型の運用を始める予定です。
後半5年にはすぐ購入できない次世代の装備品の調達
後半5年にはすぐ購入できない次世代の装備品の調達を予定しています。
30年度をめどに音速の5倍以上で飛び迎撃が難しい極超音速誘導弾の配備を目指し、23年度から開発に乗り出します。
複数の無人機を同時に制御して防衛に使う技術も構築します。
後半初年度となる28年度にはミサイル防衛を担う「イージス・システム搭載艦」の2隻体制も整う見通しです。
導入を断念した地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替で、1隻目は27年度末に就役させる予定です。
5年間で総額48兆円程度が必要
中期防で5年分を示す防衛費の総額は、10年の計画では前半の5年分を示す見込みです。
具体的な見積もりを長期にわたって固めると、硬直的な計画になるためです。
防衛省は前半の5年間で総額48兆円程度が必要だと訴えています。
いまの中期防は19年度からの5年間で27兆4700億円ほどと記しており、1.7倍になる水準です。
首相は防衛力の内容と予算規模を財源と一体的に検討すると主張しています。
防衛力整備計画の内容と防衛費の規模は財源が課題になります。
米欧の戦略も10年を単位としている
新たな計画となる10年は安保環境の悪化も念頭に置いています。
バイデン米政権が10月に公表した国家安保戦略などは中国やロシアへの対抗に「この10年間が決定的に重要」と訴えています。
米国では10年以内に台湾有事を予想する声は多いです。
米欧の計画や戦略も10年を単位とする例は目立ちます。
北大西洋条約機構(NATO)は6月、今後10年の指針となる新たな「戦略概念」を採択しました。
ウクライナに侵攻したロシアに対峙する姿勢を鮮明にしています。
まとめ
政府・与党は装備品の調達目標などを定める5年間の中期防衛力整備計画(中期防)を10年の計画に変える検討を始めました。
前半5年と後半5年で重点分野を変える方針です。
前半の5年の柱は継戦(けいせん)能力の増強です。
弾薬の数を増やし、部品不足を解消します。
後半5年には、すぐ購入できない次世代の装備品の調達を予定しています。
防衛省は前半の5年間で総額48兆円程度が必要だと訴えています。
いまの中期防は19年度からの5年間で27兆4700億円ほどと記しており、1.7倍になる水準です。
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