働く高齢者の賃金が貯蓄に回っていることが分かりました。
総務省によると65歳以上の勤労者世帯(2人以上)が2022年に貯蓄に回した額は月平均11万円と、10年前の3倍超になりました。
金融資産は60歳以上が全体の6割超にあたる1200兆円を抱えています。
高齢者に消費や世代間の移転を促さないと、景気回復は望めません。
詳しく解説していきます。
働く高齢者の貯蓄は増加している
総務省の2022年の家計調査によると、2人以上の世帯のうち世帯主が65歳以上で働いている世帯の収入は月45万5千円でした。
そのうち勤め先からの収入が27万7千円を占めています。
消費支出と税・社会保険料の支払いを合わせた額は35万2千円でした。
黒字額は10万2千円で、それに手持ちの現金などを加えた貯蓄に充てた額は11万3千円にのぼります。
2012年の3万2千円から3.4倍に増えています。
2012年の統計と比べ、世帯収入も5万円あまり増えています。
勤め先収入は3万円弱増え、受け取る公的年金も2万円ほど多くなりました。
この10年間で支出はおおむね変化がなく、収支は改善しました。
パートやアルバイトで働く配偶者が増えるなどして世帯収入が増えているようです。
65~69歳の就業率は上昇している
総務省の労働力調査によると65~69歳の就業率は12年の37.1%から21年に50.3%まで上昇しました。
厚生労働省は2019年の健康寿命は男性で72.68歳、女性で75.38歳と見積もられています。
健康寿命が伸びて高齢者が働きやすい環境は整ってきました。
高齢者が長く働き社会で活躍することは望ましいことです。
一方で65歳以上の世帯の貯蓄増に伴って個人の金融資産は高齢者に偏りつつあります。
日銀の資金循環統計によると現在、家計の金融資産残高は2000兆円を上回っています。
そのうち家計の預貯金は1000兆円ほどになります。
総務省の全国家計構造調査や家計調査をもとに、家計の預貯金について2021年時点での世帯主年齢別の保有額を推計すると、70歳以上は350兆円超、60~69歳は260兆円超となり、60歳以上で600兆円を上回っています。
預貯金全体に占める割合も64%に達っしています。
高齢者は資産の動きが鈍く消費欲も弱い
高齢世帯が貯蓄を増やそうとするのは自身の選択ですが、日本経済全体でみたときに資産が動きにくくなる点が問題となります。
たとえば高齢世帯の預貯金が投資に向かう動きは鈍いです。
家計調査をみると、1世帯あたりの貯蓄に占める有価証券の割合は2021年時点で60歳代が16%、70歳以上が17%にとどまっています。
普通預金や定期預金が全体の6割強を占め、10年前とほとんど変わりません。
高齢者自身の消費意欲も弱いです。
2023年4月時点で消費者態度指数は60歳代が33.1、70歳以上が34.1で、29歳以下の39.8や30歳代の38.3を下回っています。
高齢者の相続相手もまた比較的高い年齢層
高齢者から若い世代への資産の移転もなかなか進んでいません。
高齢化が進むなかで亡くなった高齢者の相続相手もまた比較的高い年齢層という構図になりつつあります。
財務省によると財産を残して亡くなった被相続人が80歳以上だった割合は2019年で72%まで高まっています。
相続したのは50歳以上が多いとみられています。
相続した財産価額のうち有価証券と現金・預貯金は20年分で8.5兆円で、10年前の4.1兆円から倍増しました。
金融資産が一定以上の高い年齢層の間で環流し続ける限り、若年層には行き渡りません。
状況を是正するには高齢者の貯蓄が消費や投資に回るような環境づくりが不可欠です。
生前贈与を促す税制の見直しや、負担できる能力が高い高齢者の資産を若年層に再分配するような税制や社会保障のあり方を考える必要がありそうです。