特定調停は債務整理の一つです。債務整理は全部で4種類あり、それぞれ特徴が異なります。
債務整理の方法を選ぶ場合は、自身の状況に最適な債務整理を選択をする必要があります。
この記事を読めば、特定調停の「詳細」「メリット・デメリット」を知ることができます。
特定調停とは
特定調停とは、借金を従来の約束どおり支払い続けることができなくなった債務者(特定債務者)が、裁判所の仲介によって債権者と話し合い、返済計画を立て直すことによって、経済的な再生を図る手続です。
簡易裁判所で行われ、「調停委員」という借金問題の仲裁の専門家と、裁判官で構成される「調停委員会」が、債務者と債権者(消費者金融など)の間で橋渡しをしてくれることになります。
返済計画がどのようなものになるかは状況によってさまざまですが、申立日における元本・利息・遅延損害金の合計額について、3年から5年程度、支払い続けるようになることが通常です。
特定調停を利用する条件
特定調停を利用するためには、契約どおりに借金の返済を続けていくことが困難になっていることが必要です。
つまり、「経済的な余裕はあり、契約どおりの金額を支払い続けることはできるが、今後発生する利息がもったいないから特定調停を利用したい」と思っても、その理由では認められないということです。
また、特定調停を利用しても、借金の額そのもの(元本)まで大幅に減らすことはできないので、借金の返済を続けていく金銭的な余裕がまったくない場合には利用することができません。
そのような場合には、自己破産手続きや個人再生手続を検討すべきです。
特定調停の手続きにかかる費用
特定調停を申し立てる場合には、裁判所に対して、「申立手数料」と「手続費用」を納める必要があります。
具体的には、「申立手数料」として、債権者1社あたり500円分の収入印紙、「手続費用」として、債権者が1社の場合は1,500円分(2社以上は1社につき256円追加)の予納郵便切手を納めることになります(東京簡易裁判所の場合。ただし、借入額が大きいと費用が異なる可能性があります)。
どこの裁判所で手続きができるのか
特定調停の申立ては、債権者の本店、または支店の所在地を管轄する簡易裁判所で行います。
債権者が複数いる場合には、債権者のうちの一つを管轄する簡易裁判所が、すべての債権者をまとめて扱ってくれることがあるので、自身にとって一番都合のよい簡易裁判所に申立てを行うのがいいでしょう。
特定調停のメリット
特定調停のメリットは下記の7つになります。
- 自分で申し立てれば費用が安い
- 手続きが簡単で2ヶ月程度で終了する
- 債権者からの取り立てが止まる
- 官報に名前が載らない
- 給与の差し押さえなどの強制執行を止めることができる
- 債権者と合意に至らなくても調停が成立する可能性がある
- 過払い金が発生していれば借金を減らせることもある
それぞれわかりやすく解説していきます。
1.自分で申し立てれば費用が安い
特定調停は、自己破産や個人再生と異なり、比較的簡易な手続きなので、弁護士や司法書士に依頼することなく自分で申し立てることができ、費用が安く済むというのが最大の特徴です。
たとえば、債権者が5社で弁護士に任意整理を依頼する場合、1社3万~4万円程度の弁護士費用がかかるので、費用は15万円を超えてしまいますが、自分で特定調停をする場合には、申立手数料と手続費用を合わせても5,000円程度で足りるので、かなり費用を抑えることができます。
2.手続きが簡単で2ヶ月程度で終了する
特定調停は、裁判所における手続きでありながら、通常、期日は2回程度しか開かれず、申立後2カ月程度で手続きが終了します。
したがって、手続きの申立てから終了するまでに半年程度を要することも多い自己破産手続きや個人再生手続と異なり、非常に迅速に手続きが進行します。
3.債権者からの取り立てが止まる
申立書を裁判所に提出し、それが受理されて各債権者に通知されると、返済の督促が止まります。
多くの債権者からひっきりなしに督促を受けている場合などは、特定調停の申立てによって、精神的な負担を軽減することができます。
4.官報に名前が載らない
自己破産手続や個人再生手続を利用すると、官報に名前が載ってしまいます。
しかし、同じ裁判所における手続きであっても、特定調停の場合は官報に名前が載ることはありません。
5.給与の差し押さえなどの強制執行を止めることができる
「公正証書」を作成している債権者への返済が滞ってしまうと、毎月支払われる給与や、自己名義の不動産などの財産を差し押さえて強制的に借金を回収されてしまうことがあります。
しかし、特定の債権者だけが一方的に返済を受けると、他の債権者の取り分が減ってしまうとともに、債務者の生活も立ち行かなくなるおそれがあります。
そこで、特定調停においては、この強制執行手続の停止を命じることができると定められています。
たとえば、ある債権者から給与の差し押さえを受けていて、他の債権者からの取り立ても厳しいような場合であっても、特定調停を利用すれば差し押さえを停止し、全体の返済計画を考え直すことができます。
6.債権者と合意に至らなくても調停が成立する可能性がある
特定調停においては、調停委員の仲裁ものと、債務者と債権者が返済計画の見直しについて合意を図るわけですが、合理的な返済計画であっても債権者が不当に応じず、調停が成立しない場合もあります。
しかし、そのような場合には、裁判所が職権で事件の解決のために必要な決定をすることができます。
これを「特定調停に代わる決定(通称:17条決定)」といいます。
この決定に対して、2週間以内に意義が申し立てられない場合(多くの債権者は意義を出しません)、この決定は判決と同じ効果を有することになります。
つまり、調停が成立した場合と同じ効果が生じることになるわけなので、債権者と合意することが必須である任意整理に比べると、解決に至る可能性が高いといえます。
7.過払い金が発生していれば借金を減らせることもある
特定調停においては、債権者との間に利息制限法を超える金利での取引がある場合、払い過ぎている金利分だけ借金を減らすという処理(引き直し計算)をしますので、返さなければならない借金の総額が減ることもあります。
平成18年(2006年)よりも前から長期間にわたって取引をしている場合などは、返さなければならない借金の額が大幅に減ることもあり得ますので、そのような場合には返済が楽になります。
特定調停のデメリット
特定調停のデメリットは下記の5つになります。
- 裁判所に出頭しなければならない
- ブラックリストに載る
- 任意整理ではカットされることが多い「未払利息」や「遅延損害金」も支払うことになる
- 調停調書が作成することによって、差押えが可能になる
- 過払い金を取り返すことができない
それぞれわかりやすく解説していきます。
1.裁判所に出頭しなければならない
特定調停を本人で申し立てた場合、当然ですが、自ら裁判所に行かなければなりません。
2回程度で終わるのが通常ですが、債権者が多かったり、交渉が難航したりすると、3回、4回と続いてしまうこともあり得ます。
期日は平日の昼間にしか開かれないので、平日に仕事を休むのが難しい方によっては弁護士等に依頼することが必要になるかもしれません。
2.ブラックリストに載る
約束通りの返済が困難なため特定調停を利用するわけですから、任意整理や自己破産と同様に、信用情報機関に事故情報が登録されてしまいます。
3.任意整理ではカットされることが多い「未払利息」や「遅延損害金」も支払うことになる
借金は大まかにいうと、元本と利息、遅延損害金から成り立っています。
元本と利息についてはご存じだと思います。遅延損害金とは延滞利息のことで、約束どおり支払えなくなってしまった時点から発生します。
また、支払えなくなってしまった時点から特定調停が成立するまでの間の利息を「未払利息」といい、特定調停が成立してからの利息を「将来利息」ということがあります。
特定調停が成立すれば、それ以降の利息である将来利息については支払う必要がないことがほとんどですが、他方で、未払利息や延滞損害金については、支払わなければならないとする結果になることがほとんどです。
任意整理において弁護士が交渉すれば、この未払利息と延滞損害金についてはカットできることが多いので、特定調停においては、任意整理よりも支払わなければならない額が大きくなってしまうことが多いということになります。
4.調停調書が作成することによって、差押えが可能になる
特定調停が成立すると、「調停調書」に合意の内容が記載されます。
この調停調書は、裁判所における判決と同一の効力を有しているので、債務者が調停調書の内容のとおりに支払えなくなってしまった場合には、債権者は、強制執行の手続きを取ることができるようになります
つまり、調停調書の内容が守られなければ、債権者は債務者の財産を差し押さえて競売をしたうえで、売れたお金から借金を回収したり、給与の4分の1を差し押さえたりすることができるようになるということです。
任意整理の場合には、仮に債権者との約束を守れなくなってしまったとしても、そのまま強制執行まで行えるわけではないので、約束どおりの返済ができなくなってしまった場合のリスクは、特定調停のほうが大きいといえます。
5.過払い金を取り返すことができない
メリットのところで、「過払い金が発生していれば借金を減らせることもある」と述べましたが、そこからさらに進んで、違法な利率での取引期間が長く、そもそも現在の借入残高を返す必要がなく、むしろ過払い金を取り返すことができる状況であることが判明したとしても、過払い金を特定調停で取り戻すことはできません。
その理由は、一口に過払い金を取り返すといっても、複数の論点があって、債権者としても軽率に返還できませんし、調停委員としても判断しきれないからです。
過払い金が生じていて取り返す手続きをしなければならない場合には、その部分だけは弁護士等の専門家に相談しなければならないことになります。
特定調停の手続き
ここからは、実際に特定調停を申し立てる場合に必要な書類や手続きの流れについて、東京簡易裁判所の運用を例に挙げて解説していきます。
申立てに必要な書類
申立に必要な書類は下記のとおりです。
- 特定調停申立書
➝特定調停の手続きを行うことを希望する旨を記載した書面です。自分の住所や、債権者の住所等を記載します。 - 財産の状況を示すべき明細書、その他特定債務者であることを明らかにする資料
➝自分が特定債務者であることを示すために、職業や手取り月収、所有資産等について申告するための書面です。 - 関係権利者一覧
➝自分が「いつ頃から、どこに、いくら」借りているのか、借金の状況について申告する書面です。 - 資格証明書
➝債権者は会社等の法人であることが通常ですので、各法人の本店所在地、名称および代表者名が表示されている「現在事項全部証明書」、または「代表者事項証明書」のいずれかを法務局で取得して提出する必要があります。
手続きの流れ
特定調停の手続きは、下記のような流れで進んでいきます。
step
1申立て
step
2裁判所に出頭①(事情聴取期日)
step
3裁判所に出頭②(調整期日)
step
4調停成立 or 調停不成立