投資信託を購入する時に、為替ヘッジを付けるべきか否か――。
証券会社や運用会社の相談窓口でよくある質問の一つです。
海外の株式や債券で運用する投資信託には同じ名称で「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジなし」の商品が用意されていることがありますが、どちらを選ぶべきなのでしょうか?
詳しく解説していきます。
為替ヘッジとは為替相場の影響を回避(ヘッジ)すること
通常、外国の株や債券などを運用したい場合は円を外貨に交換して、対象の銘柄を買うことになります。
そのため銘柄の値動きのほかに為替相場の影響を受けます。
例えば1ドル=115円の時に米国株で運用する投信を115万円買ったとします。
米ドルでは1万ドル分です。
その後、株価が20%上昇し、投信の価格が1万2000ドルになったとします。
このときに為替相場が1ドル=150円になっていれば、円換算での資産は約180万円と5割以上増える計算になります。
逆に同じ期間に為替相場が円高に振れれば、円換算での利益は目減りします。
このケースでは1ドル=80円まで円高が進めば、ドルベースでは利益が出ていても、円ベースでは損失となります。
為替ヘッジとはこうした為替相場の影響を回避(ヘッジ)することです。
為替ヘッジ「なし」を選ぶと為替の影響を受けますが、「あり」なら為替の影響がほとんどなくなります。
同じ運用をする投信でも、為替ヘッジの有無で運用成績には違いがでてきます。
為替ヘッジなしの方が期待リターンが大きい
実際に長い運用実績があり規模が大きい投信の成績をみると、為替ヘッジなしの方が運用成績が良いです。
米国株で運用する「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株」の過去10年の収益率は、ヘッジなし(Bコース)が年率17.44%で、ヘッジあり(Aコース)は同10.74%でした。
株式型はいずれも似た傾向がみられました。
過去数年間、米国などの株式相場は上昇基調で、円安も進んだためです。
債券型も為替ヘッジなしがおおむね優勢です。
ヘッジありの運用成績ではマイナスの商品が多いです。
債券の運用で大きな利益を出すのが難しい環境が続いたことに加え、為替ヘッジのコストも影響しています。
為替ヘッジにはコストがかかる
為替ヘッジは為替予約という手法を使うのが一般的です。
1カ月、3カ月といった期日に一定のレートで外貨を取引する契約を結ぶことになります。
円を外貨に換えて株や債券に投資すると同時に為替予約をすることで、結果として円安・円高のどちらに振れても損益は相殺されます。
為替予約では高金利の外貨を借りて低金利の円で運用するかたちになります。
支払う金利に対して受け取る金利が少ない分をコストとして払う必要があります。
投信では運用資産からコストを負担するため、運用収益を押し下げる要因となります。
特に債券型は株より期待できる収益率が低く、ヘッジコストの影響が目立ちやすいです。
ヘッジコストは短期金利の差により変化する
ヘッジコストは短期金利の差によって変化します。
推計によると、対米ドルでは2020年春から約2年間は年率1%を下回っていましたが、足元では年6%台と異例の高さになっています。
米連邦準備理事会(FRB)が利上げをする一方、国内は低金利が続くためです。
ユーロなどほかの主要通貨に対してもコストは上昇傾向です。
長期の保有が前提ならヘッジなしが基本
投信の為替ヘッジの選択は、運用する資産の状況や運用期間などによって変えるべきです。
長期の保有が前提ならヘッジなしが基本です。
長期の運用ではコストを少しでも抑えた方が成績が良くなるからです。
為替の変動リスクは積み立て投資など、購入時期を分散すれば軽減できます。
保有する資産の通貨を分散させる観点でもヘッジなしは理にかなっています。
円高局面では「為替ヘッジあり」が魅力
ただし為替ヘッジありが常に不利になるわけではありません。
円高が進む、外貨と円の金利差が小さい、といった環境下では、為替ヘッジありの魅力が高まります。
短期での収益を重視する、急激な円高を恐れる人などはヘッジありが選択肢になります。
近年は米国株など海外資産に偏った運用をする個人投資家が増えています。
外貨建て資産を持ちすぎたと考える人が一部をヘッジ付きにするのも検討するべきでしょう。