中国で最低賃金を引き上げる動きが相次いでいます。
経済規模が最大の広東省をはじめ、2021年に入り20の省・直轄市・自治区が実施しました。
習近平(シー・ジンピン)指導部が掲げる「共同富裕(共に豊かになる)」のもと労働者の不満を抑える狙いですが、人件費の上昇は工場の国外移転を加速させる可能性もあります。
中国が最低賃金を9・5%程度上げる
広東省では1日、地域別に月額1410~2200元(約2万5000~3万9000円)としていた最低賃金を1620~2360元に引き上げました。
ハイテク産業が集積する深セン市では2200元から2360元へ7・3%、自動車産業が盛んな省都の広州市では2100元から2300元へ9・5%上げました。
同省での最低賃金の見直しは18年7月以来になります。
多くの日系企業が影響を受ける
広東省には自動車の合弁工場を運営するトヨタ自動車やホンダ、日産自動車をはじめ、多くの日系企業が進出しています。
大手の事務所や工場ではもともと最低賃金を上回る額を支給しており、直接的な影響は全くありません。
しかし、清掃や食堂などの外注企業が従業員を低賃金で雇用している場合があり、今後は外注企業から値上げを要求されるなど間接的にコスト増加につながる可能性があります。
中国の人件費は東南アジアの多くの国を上回っている
中国の人件費はすでにタイやマレーシア、ベトナムといった東南アジアの多くの国を上回っています。
日本貿易振興機構(ジェトロ)がアジアとオセアニアに進出した日系企業から聞き取っている調査では、20年の「製造業・作業員」の基本給(月額)の平均は中国が531ドル(約6万円)で、タイ(447ドル)やベトナム(250ドル)を上回っています。
韓国サムスン電子が19年に中国でのスマホ生産から撤退しベトナムに移すなど、中国から東南アジアに拠点を移した製造業は多いです。
今後も人件費の上昇が続けば、移転への圧力がさらに高まる恐れがあります。
21年に引き上げが相次いだのは、20年の反動
中国の最低賃金は31ある省・直轄市・自治区がそれぞれの地域の実情にあわせて個別に見直しています。
中央政府は地方政府に最低賃金を2~3年に1度見直すように求めています。
21年は北京市や上海市などの直轄市のほか、沿岸部の江蘇省や浙江省、東北部の遼寧省や黒竜江省、内陸部の内モンゴル自治区や陝西省などが引き上げを実施しました。
21年に引き上げが相次いだのは、20年は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて経済が落ち込んでいたため、多くの地域で見送っていた反動もあります。
最低賃金の引き上げによって他地域から農民工を呼び込む
習指導部が掲げる共同富裕に呼応する面もあります。
8月に習氏が開いた党中央財経委員会の会議では、共同富裕の実現のため富の配分を強化するという方針を確認しました。
21年に最低賃金を引き上げた20地域のうち、半数は9月以降に実施しました。
最低賃金の引き上げで最も恩恵を受けるのが、「農民工」と呼ばれる農村から都市への出稼ぎ労働者です。
工場で働く場合は残業代が多く出るため、一般に最低賃金の2倍程度が実際の賃金の目安とされるが、所得環境は厳しいです。
習氏は22年秋の党大会で異例の3期目続投に向けた足場を固めていますが、3億人近くにのぼる農民工に待遇改善をアピールしさらに盤石にしたいという思惑もありそうです。
地方政府にとっても、労働力人口の減少が続き働き手が不足するなか、最低賃金の引き上げによって他地域から農民工を呼び込む狙いがあります。
まとめ
ハイテク産業が集積する深セン市では2200元から2360元へ7・3%、自動車産業が盛んな省都の広州市では2100元から2300元へ9・5%上げます。
自動車の合弁工場を運営するトヨタ自動車やホンダ、日産自動車をはじめ、多くの日系企業が進出しています。
大手の事務所や工場ではもともと最低賃金を上回る額を支給しており、直接的な影響は全くありません。
中国の人件費はすでにタイやマレーシア、ベトナムといった東南アジアの多くの国を上回っています。
日本貿易振興機構(ジェトロ)がアジアとオセアニアに進出した日系企業から聞き取っている調査では、20年の「製造業・作業員」の基本給(月額)の平均は中国が531ドル(約6万円)で、タイ(447ドル)やベトナム(250ドル)を上回っています。
今後も人件費の上昇が続けば、移転への圧力がさらに高まる恐れがあります。
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