借金の返済に滞るようになると、返済を求める電話がかかってきたり手紙が送られてきたりします。
このような行為を一般的に「借金の取り立て」といいます。
取り立てが開始されると、その対応のために自身の時間を取られるだけでなく、相応のストレスが発生することになります。
そればかりか、取立てにきちんと対応して返済をしないと、裁判を起こされて財産や給与の差し押さえをされてしまいます。
この記事では、「取立てのルール」や「違法な取り立てを受けた場合の対処法」、「根本的な解決策」を解説していきます。
禁止されている借金の取り立て行為
午後9時から午前8時までの取り立て
貸金業法21条1項は、「債権の取り立てをするにあたって、人を脅迫しまたは次に掲げる言動その他の人の私生活もしくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない」と規定しています。
そして、同行の第1号で、「正当な理由がないのに、社会通念に照らし不適当と認められる時間帯(午後9時から午前8時)に、債務者等に電話をかけたり、ファックスを送信したり、債務者等の自宅を訪問すること」を禁止しています。
「正当な理由」とは?
債務者が事前に承諾している場合や、債務者と急に連絡がつかなくなって音信不通になってしまった場合などが該当します。
債務者から申し出のあった時間帯以外での取り立て
同項2号では、「債務者等が弁済し、または連絡し、もしくは連絡を受ける時期を申し出た場合において、その申出が社会通念に照らし相当であると認められないことその他の正当な理由がないのに、前号に規定する内閣府令で定める時間帯以外の時間帯に、債務者等に電話をかけ、もしくはファクシミリ装置を用いて送信し、または債務者等の自宅を訪問すること」を禁止しています。
つまり、債務者が「連絡をしてくる場合は○時~○時にして欲しい」などと申し出があった場合、日中であっても原則として貸金業者が電話をかけることは禁止されているのです。
第三者に借金のことを口外する行為
債権者は、債務者のプライバシー情報を第三者に教えてはいけないことになっています。
つまり、債務者の職場の同僚などに「○○○さんが借金を返してくれなくて困ってるんですよね」などと言うようなことは個人情報の漏洩になるため、禁止されています。
ほかにも、債務者宅の玄関に借金返済を求める張り紙はつける行為や、立て看板の設置、ビラ配りなどの行為も禁止されています。
職場へ訪問しての取り立て
金融業者から借入をする際には、勤務先の記載を求められることになり職場を知られることになりますが、借金取り立てのために勤務先を訪問することは禁止されています。
しかし、禁止されているのはあくまで訪問であって、電話による取立ては規制されていませんので、職場に債権者から電話がかかってくることはあります。
その場合も、「第三者に借金のことを口外する行為は禁止されている」ため、真っ当な債権者なら個人情報を漏らすような事はないでしょうが、1日に何度も同様の電話があれば、同僚などに勘付かれてしまうリスクがあります。
職場への電話の取立てを避けたい場合は、事前に債権者と話をして、連絡してくる時間帯などの話をつけておきましょう。
自宅や職場などに居座る行為
自宅等に訪問してきた債権者に「帰ってほしい」と説明しているにも関わらずその場に居座る行為は不退去罪に問われる可能性があります。
不退去罪とは?
刑法に規定された犯罪類型の一つであり、要求を受けたにもかかわらず人の住居等から退去しないことを内容とする。 真正不作為犯である。 刑法130条後段に規定されており、同条は前段で住居侵入罪も規定している。
自宅や職場などに居座る行為が続く場合には、警察に通報しましょう。
他者からお金を借りて返済を強要する行為
借金の取立てにあっている状況ですと、すでにブラックリストに入っている可能性が高いため金融業者から新たな借入をすることは難しいです。
そのため、悪質な債権者ですと、「自分で返せないのなら親戚から借金してでも返せ」などと、他者からお金を借りさせて返済を強要してくる場合があります。
このような、他者からお金を借りて返済を強要する行為は禁止されています。
借金をしている本人以外への取り立て
悪質な金融業者ですと、債務者の「親、兄弟、親戚、友人に返済を求めるぞ」と脅しをかけてくることもありますが、借金している本人以外への取り立ては一切禁止されています。
ただし、連帯保証人になっている方に対してはこの限りではありません。
大声を出す、脅迫をする、暴力的な取り立て
テレビなどに広告を出している有名な金融業者ならこのような取立ての心配はありませんが、いわゆる闇金業者では横暴な取り立てが横行しています。
もちろん、このような取り立て行為は禁止されています。
「払わなければ殺すぞ」などと言ってすごむ行為は脅迫罪(刑法222条)ですし、脅迫によって借金を回収した場合は恐喝罪(249条)、暴力をふるう行為は暴行罪(208条)、暴行によってケガをした場合は傷害罪(件法204条)になります。
こういった行為以外にも、刑法上の犯罪となる場合は多く、被害を受けた場合は、警察に告訴(犯罪の事実を捜査機関に告げること)してください。
弁護士や司法書士が介入した後の取り立て
弁護士や司法書士が介入して債務整理の手続きに入った場合、債務者本人へ直接取り立てをすることが禁止されます。
取り立てをするのであれば代理人である弁護士や司法書士を介さなければなりません。
借金の取り立ての流れ
実際に借金の取り立てはどのように行われているのでしょうか?
借金取り立ての流れをわかりやすく解説していきます。
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1電話や手紙などによる督促
自宅電話や携帯に電話がかかってきたり、「滞納分を支払ってください」といった内容のハガキや書面が届いたりします。
債権者からの借金返済を求める連絡は億劫ですが、無視を続けていると職場等へ連絡が来てしまう可能性があるため、必ず応対しましょう。
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2一括返済請求を受ける
内容証明郵便は、相手方に通便物が間違いなく届いたことを証明するためのものです。
内容証明郵便で届いたということは、貸金業者側が法的手続きを検討していることを意味しています。
この段階でも貸金業者に連絡を入れ、誠意を持って返済をしたい旨を伝えれば、場合によっては分割払いに応じてくれるケースもあります。
貸金業者から内容証明郵便が届いた場合は、手遅れになる前に弁護士に相談をしましょう。
場合によっては、債務整理によって返済額を減らすことが可能です。
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3裁判をおこされる
判決が確定してしまうと、預貯金や給与を差し押さえられたり、自宅や車などの財産を売却されてしまう可能性があります。
借金の取り立ては債権回収会社が請け負う
大手の貸金業者になると、実際に借金の取り立てを行うのは債権回収会社になることがほとんどです。
債権回収会社とは、債権回収を専門とする会社のことで、債権者から委託を受け債権者に代わって債務者本人に借金の取り立てを行います。
債権回収会社による取り立ても上記のような流れで行われます。
大手の貸金業者のほとんどが債権回収会社を利用しており、各社の委託先は以下のようになっております。
債権回収の委託先
貸金業者 | 委託先 |
アイフル | アストライ債権回収 |
アコム | アイ・アール債権回収 |
プロミス(SMBCコンシューマーファイナンス)、レイク(新生銀行)、ジャックス、モビット、オリックスクレジット、アットローン、シティーカード | アビリオ債権回収 |
CFJ、SKインベストメント | アウロラ債権回収 |
イオンクレジットサービス | エー・シー・エス債権管理回収 |
セディナ | セディナ債権回収 |
丸井、エポス | エムアールアイ債権回収 |
違法な取り立てを受けた場合の対処法
もし貸金業法に違反するような違法な取り立てを受けてしまった場合、どのように対処したらよいのでしょうか?
有効な相談先は主に下記の3つです。
- 警察
- 弁護士
- 公的な機関
それぞれわかりやすく解説していきます。
警察が対処してくれる違法な取り立て
下記のような取り立てを受けた場合、警察に相談することによって解決できる可能性があります。
該当するものがあれば、まずは警察に相談しましょう。
- 大声を出したり威圧的な態度を取る:脅迫罪
- 職場に訪問して仕事の邪魔をする:業務妨害罪
- 返済義務のない人への取り立て:強要罪、恐喝罪
- 他者からお金を借りて返済するように要求:強要罪
- 許可なく自宅に立ち入る:住居侵入罪
- その場に居座る:不退去罪
- 債務者を閉じ込めて身動きできないようにする:監禁罪
- 暴力を振るわれた:暴行罪
弁護士に相談する
弁護士や司法書士が介入して債務整理の手続きに入った場合、債務者本人へ直接取り立てをすることが禁止されます。
債務整理とは法的に借金の減額や免除をする手続きのことで、手続きの種類には「任意整理」「特定調停」「個人再生」「自己破産」の4つがあります。
特定調停に関しては、弁護士等を介さないで債務者と債権者と裁判所の3者で話を進める手続きです。
それぞれにメリット・デメリットがあり、どの方法をとるのが最善なのかはそれぞれの状況によって異なります。
債務整理の種類と特徴
種類 | 手続きの内容 |
任意整理 | 貸金業者との直接交渉によって、借金の将来利息免除や毎月の返済額を減らしてもらう手続です。 |
特定調停 | 裁判所の仲介によって債権者と話し合い、返済計画を立て直すことによって、経済的な再生を図る手続です。 |
個人再生 | 裁判所に申し立てをして、今ある借金を最大で10分の1程度にまで減額してもらう手続きです。 |
自己破産 | 裁判所を介して借金をゼロにしてもらいます。収入がない無職の人でも手続きが可能です。 |
公的な機関に相談する
下記の3つの機関でも相談にのってもらうことができます。
相談は無料ですので、費用が気になる方は弁護士に相談に行く前にこれらを活用することをお勧めします。
市区町村役場などの相談窓口
居住の役場でも借金問題の関する無料相談に応じてくれるところは多いです。
最寄の役場に問い合わせてみましょう。
国民生活センター
借金問題をはじめとする様々な法的トラブルについて、無料で電話相談に応じてもらえます。
国民生活センター:http://www.kokusen.go.jp/
法テラス
多重債務や闇金被害など、借金問題について幅広く相談をすることができます。
法テラス:https://www.houterasu.or.jp/
借金の返済に困っているなら債務整理を検討しよう
取り立てが実際に行われているということは、すでに計画通りの返済ができていない状況のはずです。
このような場合に検討したいのが、債務整理です。
債務整理をすることによって、借金の額を減らせたり、利息をカットすることができます。
それによって、返済が可能になり毎月きちんと返済していくことによって、借金の取り立てを根本的に解決することができます。
債務整理には下記の4つの方法があります。
- 任意整理
- 特定調停
- 個人再生
- 自己破産
それぞれわかりやすく解説していきます。
1.任意整理とは
任意整理とは、弁護士等の法律の専門家に依頼して、銀行や消費者金融業者等の債権者と交渉することによって行う債務整理の手段です。
交渉によって、借金の元金を減らしたり利息のカットを目指します。
借金に苦しんでいる人が自分の債権者と交渉してみても、債権者がなかなか交渉に応じてくれなかったり、交渉に応じてくれたとしても提示してくる条件が非常に悪かったりするのが一般的です。
そこで、法律の専門家である弁護士や司法書士(ただし、司法書士の場合は、借入額140万円を超えると、法律上、法律事務の取り扱いができません)に金融業者と交渉してもらって、有利な条件で和解をまとめてもらうものです。
2.特定調停とは
特定調停とは、借金を従来の約束どおり支払い続けることができなくなった債務者(特定債務者)が、裁判所の仲介によって債権者と話し合い、返済計画を立て直すことによって、経済的な再生を図る手続です。
簡易裁判所で行われ、「調停委員」という借金問題の仲裁の専門家と、裁判官で構成される「調停委員会」が、債務者と債権者(消費者金融など)の間で橋渡しをしてくれることになります。
返済計画がどのようなものになるかは状況によってさまざまですが、申立日における元本・利息・遅延損害金の合計額について、3年から5年程度、支払い続けるようになることが通常です。
3.個人再生とは
個人再生とは、裁判所を通じて行う手続きで、支払いきれなくなった借金を一定の基準に基づいて減額し、原則として3年間(最長5年間)の分割払いにする方法です。
任意整理とは異なり、裁判所により強制的に借金が減額されるので、「任意整理で利息をカットしたり、月々の返済額を減らしたりしても、返済を続けていくことがむずかしい」という人にとって魅力的な制度です。
4.自己破産とは
自己破産とは、自分が持っている財産や収入が不足し、借金返済の見込みがないことを裁判所に認めてもらい、原則として、法律上、借金の支払い義務が免除される手続です。
自己破産をすると原則として借金を支払う義務がなくなりますので、借金に追われる生活から解放され、新たな人生のスタートを切ることができます。
自己破産は個人的な手続きであるため、通常は家族や親族に影響が及ぶことはありませんし、知り合いに自己破産したことを知られる可能性は極めて少ないです。
ただし、保証人になっている場合は本人に代わって請求されますので、事前に相談するべきでしょう。