自己破産は債務整理の一つです。
どの方法で借金の整理をするべきかは個々の状況によって異なります。
自己破産のメリット・デメリットを理解することで、自身の借金の整理方法に自己破産を選択するべきか判断することができるようになります。
自己破産とは
自己破産とは、自分が持っている財産や収入が不足し、借金返済の見込みがないことを裁判所に認めてもらい、原則として、法律上、借金の支払い義務が免除される手続です。
自己破産をすると原則として借金を支払う義務がなくなりますので、借金に追われる生活から解放され、新たな人生のスタートを切ることができます。
自己破産は個人的な手続きであるため、通常は家族や親族に影響が及ぶことはありませんし、知り合いに自己破産したことを知られる可能性は極めて少ないです。
ただし、保証人になっている場合は本人に代わって請求されますので、事前に相談するべきでしょう。
自己破産の目的
自己破産は、破産法という法律にのっとって手続きが進められますが、その目的は第一条に定められています。
〈第1条〉
この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続きを定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適切かつ公正な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。
債務整理を考えている方にとって、自己破産をする最大の目的は債務をなくすこと(_)ですが、債務者のためではなく、債権者のために清算をする(_)ための制度であることも重要です。
自己破産には2つの目的がありますから、債権者のために財産等を清算する手続き(破産手続)と債務者のために債務をなくす手続き(免責手続き)とが、どちらも進められるとイメージしていくといいでしょう。
自己破産の手続きは2種類ある
自己破産の方法は、「破産管財人」が関わるかどうかで下記の2つに分かれます。
- 管財事件(管財人が関わる)
- 同時廃止(管財人が関わらない)
それぞれわかりやすく解説していきます。
管財事件とは
破産手続きをするためには、債権者数や債権額、債権者に分けるべき申立人(債務者)の財産額等を調査し、破産手続きが終了するまで管理し、債権者に分ける(配当)必要があります。
また、申立人の債務の原因や対応いかんによっては免責が許されない場合もあるため(免責不許可事由)、そうした事情がないかを調査する必要があります。
しかしながら破産申立ては、個人の自己破産だけでも年間7万件以上に及びます。これらの事実関係の調査や財産管理等をすべて裁判所が行うのは非常に負担が大きく困難です。
そのため裁判所は、これらの業務を行う者として、「破産管財人」を選任します。そして、破産管財人からの報告結果をもとに、裁判所が破産手続き・免責手続きの決定を判断します。
このように、破産管財人が選任されたうえで進んでいく破産事件を「管財事件」と呼んでいます。
同時廃止とは
上記で説明した破産管財人が選任されるのは、申立人の財産の調査・管理・配当や、免責不許可事由の調査等をする必要があるためです。
しかし、破産手続きを行うにも時間やお金がかかります。破産者に、破産手続きの費用を賄うだけの財産がないことが判明している時にまで破産管財人を選任しても、内容の乏しい手続きを行うことになります。
また、申立人の経済的負担にもなります(破産管財人の報酬は、申立人が負担することになっています)。
そのため、破産手続きが始まると同時に終了させる制度が存在します。それが、「同時廃止」です。
同時廃止では、破産手続きそのものがすぐに終了しますから、破産管財人が選任されることはなく、免責手続きだけが進むことになります。
なお、破産者に財産が十分に残されていることは多くありません。
個人の自己破産の多くは、同時廃止の手続きによって行われています。
自己破産のメリット
自己破産のメリットには、下記の3つがあります。
- 返済義務が免除される
- 請求や督促がなくなる
- 一定の財産を残すことができる
それぞれわかりやすく解説していきます。
1.返済義務が免除される
自己破産の最大のメリットは、借金が免責(免除)されることです。
ただし、自己破産の申立てをして破産手続き開始の決定をえる手続きと借金の免除をえるための免責許可の申立ては別個の手続きです。
自己破産の申し立ての手続きのみで、免責許可の手続きをしないと、借金の免除はされませんので注意が必要です。
なお、旧破産法下では、自己破産の申し立てをすると破産申告がなされ、破産が確定した後2週間以内に免責の申立てをすることになっていました。
そのため、免責の申立てを忘れたり、必要ないと思い込み、この期間が過ぎてしまい免責がえられず問題が多発しましたが、現行の破産法では、自己破産の申立時に免責許可の申立てもしたとみなすことになり、トラブルは激減しました。
上記のとおり、自己破産の申立てで借金がなくなるというのは正解ではなく、自己破産の手続き開始の決定があり、その後、免責の許可が確定した場合に、借金がなくなるというのが正しい考え方です。
2.請求や督促がなくなる
自己破産の申し立てをすることにより、債権者は電話等による支払いの催促をすることができなくなります。
貸金業法21条1項9号は「債権者は正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、もしくファクシミリ装置を用いて送信し、または訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対して債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、さらにこれらの方法で要求すること」を禁止しています。
なお、債務者が債務の処理を弁護士に委託した場合も同様に、弁護士から受任通知が行くと債務者への直接の取り立てはなくなります。
3.一定の財産を残すことができる
自己破産というと、背負っている借金がなくなる代わりに保有しているすべての財産を失う、というイメージを持っている人もいると思いますが、実はそうではありません。
すべての財産が破産財団とされ、家具や家電まで換価の対象とされてしまっては、申立人としては自己破産ができても生活ができなくなります。
そのため、破産法は一定の範囲について、破産手続き開始決定後でも債権者が差し押さえることができず、破産者が自由に管理・処分できる財産を認めています。
これを、自由財産といいます。
破産法という法律には下記のような定めがあります。
第3項 第1項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。
1 民事執行法(昭和54年法律第四号)第131条第3号に規定する額に2分の3を乗じた額の金銭
2 し押さえることができない財産(民事執行法第131条第3号に規定する金銭を除く。)。ただし、同法第132条第1項(同法第192条において準用する場合を含む。)の規定により差押えが許されたもの及び破産手続開始後に差し押さえることができるようになったものは、この限りでない。
簡単に説明すると、下記のようなものは奪われることはないということです。
①99万円以下の現金(預貯金は含まない)は没収されない
②20万円未満の預貯金は没収されない
③差し押さえが禁止されているもの
※差し押さえが禁止されているものとは、衣装ケース、ベッド、衣類など、生活に必要なもの等です。
具体的な事情で判断がわかれるケースもあるため、自由財産として手元に残せるかどうかは、専門家に相談するのがよいでしょう。
自己破産のデメリット
自己破産のデメリットには下記の6つがあります。
- ブラックリストに載る
- 財産を手放さなくてはならない
- 破産者には就けない職業がある
- 官報に掲載される
- 郵便物が移送されてしまう
- 裁判所に身柄を拘束される可能性がある
それぞれわかりやすく解説していきます。
1.ブラックリストに載る
自己破産に限らず、債務整理の手続きを行う場合、信用情報機関に登録されることになります。俗にいう、「フラックリスト」に載るという状態です。
これにより一定期間、新たに借入れをしたり、ローンを組んだり、クレジットカードを作ることができなくなります。
自己破産の場合一定期間は5年から10年程度といわれていますから、この期間を過ぎれば、また借入等を行うことが可能です。
2.財産を手放さなくてはならない
財産とは、預貯金は勿論のこと、不動産や日常生活で使っている洗濯機やテレビも動産という財産になります。
こうした財産のうち、一定の財産を除き、破産者の財産は破産財団となり、破産者は使用・処分権を失います。
その後、破産財団に属する財産は処分・換価されて債権者に配当されるという運びになるのです。
上記の一定の財産とは、99万円以下の現金および家具等の日常生活に欠くことのできない財産で差し押さえが禁止されています。
又、裁判所は事情を考慮して、破産者の申立て、または職権で、破産財団に属さない財産(自由財産)の範囲を拡大することができるとしています。
なお、破産手続きの決定後に取得した財産については、破産財団に属することはなく、自由に使うことができます。
ただし、破産手続き前に生じた将来の請求権については、破産財団に属することになります。
上記のように財産はなくなりますが、それ以上の借金の免除があるのですから、デメリットと言えないかもしれません。
3.破産者には就けない職業がある
これは、資格を必要とする一定の職種には就けない(欠格事由)というもので、資格制限と言われています。
これには、弁護士や公認会計士、公証人、司法書士、弁理士、税理士、宅地建物取引主任者などがあります。
したがって、公務員にもなれますし、通常のサラリーマンとして勤務できないというようなものではありません。
この資格制限は、免責許可の確定により復権することで、制限はなくなります。
こうした資格の有る人は、免責までの期間の資格制限とはいえ、やはり自己破産以外の借金整理を考えた方がいいでしょう。
なお、以前は会社の取締役、監査役は破産者となれば退任しなければなりませんでしたが、平成18年の新会社法の施行により、退任事由ではなくなりました。
4.官報に掲載される
破産者の名前は「官報」に掲載されます。
官報とは、法令など政府情報の公的な伝達手段であり、政府が毎日発行する新聞のようなものと理解してもらえれば問題ありません。
官報に名前が掲載されると聞くと、大々的に世間に知られてしまうように思うかもしれませんが、現実には官報を毎日、すみずみまで確認している人は少ないと思います。
ですから、知人や職場の人に知られてしまう心配をする必要はほとんどありません。
5.郵便物が移送されてしまう
管財事件では、裁判所の許可により破産者宛の郵便物を破産管財人に移送することができます。
そのため、管財人が進行している期間については、郵便物を直接受け取れない場合も多いです。
もちろん、自己破産手続き上で不要な郵便物(年賀状など)であれば、自己破産手続き中であっても破産管財人から受け取ることができるケースもあります。
6.裁判所に身柄を拘束される可能性がある
自己破産の手続き中には、破産者自身が出頭しなければならない手続きがいくつかあります。
そのため、これらの手続きに破産者が出頭しない、あるいは手続きに協力しないようなことがあると、裁判所にとっても不都合です。
そこで、裁判所が必要と認める場合には、破産者が身体拘束(引致:いんち)を受けることがあるのです。
この手続きに限っては、破産申立てがあれば、破産手続き開始決定の前であっても行われる可能性があります。
もっとも、素直に手続きに応じていれば引致を受けることはありませんし、実際に身体拘束されたケースはほとんどありません。