全国の人工林の過半が50歳を超え、高齢化が目立ってきました。
国内の林業は安価な輸入木材に押されて産業競争力が低下し、伐採や再造林が進まない負の連鎖に陥っています。
手入れされていない放置林は台風などの災害に弱く、二酸化炭素(CO2)の吸収源としても認められません。
森林の荒廃に歯止めをかけなければ、地域の安全確保や脱炭素の壁となる恐れがあります。
2019年の台風15号で大停電が発生した千葉県。電線や電柱をなぎ倒したのは、人の手が入らないままの放置林でした。
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50歳を超える森林は人工林全体の半分以上
人工林の多くは第2次世界大戦後、国土復興のために植えられたものです。
近年は整備が行き届かず、一部は荒廃するに任せたままになっています。
千葉県山武市の担当者は「毎年伐採しても追いつかないくらい対象箇所が多い」と漏らします。
とうてい新たな植林どころではありません。
林野庁の調べでは伐採後の造林が計画どおりに進んでいない「造林未済地」は17年度に約1万1400ヘクタールと3年前より3割増えています。
50歳を超える森林は500万ヘクタールを超え、人工林全体の半分以上を占めるに至っています。
森林が吸収するCO2は約2割減
森林の老いがもたらす問題は防災に限りません。
林野庁は日本の森林が吸収するCO2は2014年度の5200万トンが直近のピークで、19年度は約2割少ない4300万トンまで減ったと推計されます。
CO2を取り込む量は樹齢40年を過ぎて成長が落ち着くと頭打ちになると考えられています。
政府は2021年4月、30年度に温暖化ガスを13年度比で46%削減する目標を表明しました。
森林によるCO2吸収量は目標の5%分にあたる年約3800万トンと想定しています。
今のペースで森林が老いていくと吸収源の役割を果たせなくなり、脱炭素の足かせになりかねません。
手入れや日照などの条件を満たす必要がある
そもそも、手入れされて一定の日照などを確保できる森林でなければCO2吸収源として国際的に認められません。
日本が主導してまとめた京都議定書の考え方によるものです。
国内の人工林約1000万ヘクタールのうち、既に2割程度は吸収源に算入できないとの見方もあります。
林業の再生は一筋縄ではいかない
立木価格の低迷
温暖化ガスの排出削減というと、再生可能エネルギーなどの話になることが多いです。
林業も本来、軽視できません。中国は現に大量の植林に動いています。
林業の再生は一筋縄ではいきません。伐採や植林は数十年単位の事業なのです。
防災や脱炭素といった社会的有用性の前に、現実にはビジネスとしての厳しさが立ちはだかります。
日本不動産研究所(東京・港)によると、20年にスギの丸太の売り上げから経費を引いた金額(立木価格)は1立方メートル2900円。
2万円を超えていたピークの1980年ごろの1割程度です。
世界的に川下の木材価格が高騰したウッドショックの下でも、川上の立木価格は低迷したままです。
ある大手林業家は「とても採算が合わない。林業は衰退の一方だろう」と吐露しています。
山がちな日本は林業に向かない
20年の建築木材の総需要量に占める国産の割合は半分弱にとどまっています。
木材の輸出国として知られるカナダや米国は平地が多いです。
山がちな日本は林道整備や搬出に手間がかかる不利を背負うのです。
コスト競争力を高めるために林地を集約しようにも「(山地で)境界線が不明なことが妨げになっている」。
相続を繰り返して所有者が分からなくなっているケースもあります。
成果を川上の林業に還元する政策が求められる
近畿大学の松本光朗教授は「木材利用を促進し、成果を川上の林業に還元する政策が求められる」と指摘しています。
機械化による生産性の向上、複雑な所有権の整理など取り組むべき課題は多いです。
防災など幅広い観点から官民の知恵や資金を集める必要があります。
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