この記事では、「借金の時効」について解説していきます。
借りていた借金が時効を迎え、返済をする必要がなくなるなんて夢のような話ですが、条件は単純に期間が経過するだけではなく、簡単ではありません。
また、時効を成立させるには手続きをする必要があります。
この記事を読めば、借金の時効が成立するための「条件」「手続き」を知ることができます。
借金の時効とは
犯罪に時効があるように、借金の借入れにも時効があるのです。
たとえば、金融業者からの借金の場合、滞納などで最終取引から5年間経過すると、消滅時効が成立します(商法522条)。
消滅時効が成立している場合、時効の援用(「時効だから払いません」という意思表示。一般的には通知書などの文面を金業業者に送ります)をすれば、借金を消滅させることができます。
ただし、裁判を起こされていたり、支払う約束をして債務を承認している場合などには、5年以上経過しても消滅時効の援用はできません。
滞納している借金がある場合には、「何年支払っていないか」「その債権者にこれまで裁判を起こされたことはないか」を確認してみましょう。
なお、信用金庫や個人からの借り入れなどは、10年間経過しないと消滅時効は成立しませんので、注意が必要です(民法167条)。
また、消滅時効が成立していても、勝手に借金が消えてなくなるわけではありません。
時効成立後に時効の援用をすることで、はじめて借金がなくなります。
時効援用のやり方がわからない場合には弁護士などに相談してみましょう。
借金の時効が成立するための条件
借金時効の条件が成立するには、下記の3つの条件を満たす必要があります。
- 最終返済から5〜10年が経過している
- 「時効の中断(更新)」が起こっていない
- 消滅時効の援用手続きをしている
それぞれわかりやすく解説していきます。
1.時効になる期間は5年または10年
借金が時効になるまでの期間は、借入先や裁判を起こされているかによって変わってきます。
5年で時効が主張できるケース
- 消費者金融のキャッシング
- 銀行のカードローン
- 信販会社のクレジットカードの債務
10年で時効が主張できるケース
- 信用金庫の借り入れ
- 信用組合の借り入れ
- 労働金庫の借り入れ
- 奨学金
- 個人間の貸し借り
- 過去に裁判等を起こされたもの
※信金等の借入でも債務者が個人事業主で事業目的の借入は5年になります。
2.「時効の中断(更新)」が起こっていない
時効期間は中断(リセット)され、ゼロから数え直しになる場合があります。
これを民法では「時効の更新」と呼んでいます。
時効がリセットされるのは、以下の3つのいずれかに該当する場合です。
債権者が裁判上の請求を行った場合
債権者が裁判所を介した請求を行うと、時効期間は更新されます。
請求書や口頭による請求は「催告」にあたり、時効は更新されません。
催告書が送られると、その時点から6ヶ月間、時効期間の進行が止まります。
6ヶ月以内に裁判上の請求が行われると、時効は更新されます。
債権者による差押え・仮差押え・仮処分があった場合
借入先(債権者)が裁判を起こし、債務者の財産の差押え・仮差押え・仮処分があった場合も、時効が更新されます。
なお、財産が差し押さえになる可能性があるのは、次の3つのケースです。
- 担保を設定している
- 公正証書に強制執行に服することが記載されている
- 裁判に負けている
上記に当てはまらない場合、差押えになることは原則ありません。
債務者が借金の返済意思を示した場合
借りた人(債務者)が以下の対応をした場合も、時効が更新されます。
- 返済期限を過ぎてから1円でも返済した場合
- 債権者に「返済を待ってほしい」と伝えた場合
法的には「債務の承認」と呼ばれ、債務者に返済意志があるとみなされるためです。
3.消滅時効の援用手続きをしている
時効の援用とは、消滅時効制度を利用することを相手に伝えるということです。
伝える方法は口頭でも可能ですが、証拠を残すために内容証明郵便を利用することで、その後のトラブルを回避することができます。
長い間、返済をしなかったり債権者から裁判を起こされるわけでもなく、法律が設定する時効成立の期間を過ぎただけでは、消滅時効の効果は有効になりません。
有効にするためには、法律上、時効援用の意思表示をしなければなりません。
なぜこのような手続きを求められるかというと、人によっては時間が経っても返していきたいと考える方もいるかもしれません。
そのため、消滅時効の制度を利用するかどうかは本人の意思に任せるため、時効援用の手続を踏む必要があるのです。
時効期間が過ぎた後に返済してしまったら援用はできるのか
1円でも返済した場合は時効が更新されると解説しましたが、時効期間を過ぎてから誤って返済した場合はどうでしょうか?
最高裁判所の判例によると、時効期間を過ぎてしまっている借金でも返済してしまうと、時効援用することができなくなり、そこから数え直しが始まるとなっています。
これはお金を借りた方が、時効期間が過ぎていることを知っているかどうかは関係ありません。
ただし、例えば半ば脅されてごく少額を返済してしまった場合など、債権者の期待を法的に保護する必要がない場合は、例外的に時効援用できる可能性がありますので、そのような場合は弁護士などの専門家に相談してみましょう。
借金の時効が成立するまでの流れ
時効援用の手続きは、下記の流れで行われます。
step
1弁護士や認定司法書士に相談・依頼
その後、手続きの流れや費用、スケジュールなどの説明を受けます。
step
2受任通知の送付・債権調査
また、債務の内容が明らかになります。
step
3「時効援用通知書」を発送
時効援用通知書に記載する内容の例
- 通知書を送る日付
- 時効が完成していること
- 時効を援用すること
- 信用情報機関の登録情報を削除してもらいたい旨を伝える
- 債権の内容特定(債権者の会社名・住所・代表者名、債務者の氏名・住所・生年月日・借入日・借入金額・契約番号または会員番号)
step
4消滅時効の成立
債権者から契約書が返還されることもありますが、返還されないケースの方が多いといわれています。
借金問題を解決したいなら債務整理を検討しよう
取り立てが実際に行われているということは、すでに計画通りの返済ができていない状況のはずです。
このような場合に検討したいのが、債務整理です。
債務整理をすることによって、借金の額を減らせたり、利息をカットすることができます。
それによって、返済が可能になり毎月きちんと返済していくことによって、借金の取り立てを根本的に解決することができます。
債務整理には下記の4つの方法があります。
- 任意整理
- 特定調停
- 個人再生
- 自己破産
それぞれわかりやすく解説していきます。
1.任意整理とは
任意整理とは、弁護士等の法律の専門家に依頼して、銀行や消費者金融業者等の債権者と交渉することによって行う債務整理の手段です。
交渉によって、借金の元金を減らしたり利息のカットを目指します。
借金に苦しんでいる人が自分の債権者と交渉してみても、債権者がなかなか交渉に応じてくれなかったり、交渉に応じてくれたとしても提示してくる条件が非常に悪かったりするのが一般的です。
そこで、法律の専門家である弁護士や司法書士(ただし、司法書士の場合は、借入額140万円を超えると、法律上、法律事務の取り扱いができません)に金融業者と交渉してもらって、有利な条件で和解をまとめてもらうものです。
2.特定調停とは
特定調停とは、借金を従来の約束どおり支払い続けることができなくなった債務者(特定債務者)が、裁判所の仲介によって債権者と話し合い、返済計画を立て直すことによって、経済的な再生を図る手続です。
簡易裁判所で行われ、「調停委員」という借金問題の仲裁の専門家と、裁判官で構成される「調停委員会」が、債務者と債権者(消費者金融など)の間で橋渡しをしてくれることになります。
返済計画がどのようなものになるかは状況によってさまざまですが、申立日における元本・利息・遅延損害金の合計額について、3年から5年程度、支払い続けるようになることが通常です。
3.個人再生とは
個人再生とは、裁判所を通じて行う手続きで、支払いきれなくなった借金を一定の基準に基づいて減額し、原則として3年間(最長5年間)の分割払いにする方法です。
任意整理とは異なり、裁判所により強制的に借金が減額されるので、「任意整理で利息をカットしたり、月々の返済額を減らしたりしても、返済を続けていくことがむずかしい」という人にとって魅力的な制度です。
4.自己破産とは
自己破産とは、自分が持っている財産や収入が不足し、借金返済の見込みがないことを裁判所に認めてもらい、原則として、法律上、借金の支払い義務が免除される手続です。
自己破産をすると原則として借金を支払う義務がなくなりますので、借金に追われる生活から解放され、新たな人生のスタートを切ることができます。
自己破産は個人的な手続きであるため、通常は家族や親族に影響が及ぶことはありませんし、知り合いに自己破産したことを知られる可能性は極めて少ないです。
ただし、保証人になっている場合は本人に代わって請求されますので、事前に相談するべきでしょう。