2030年ごろに北海道と東北で再生可能エネルギーによる発電の最大4割超が無駄になる恐れがあることが2022年3月21日に分かりました。
電力の供給量が需要を超えた際、太陽光や風力などの発電を止める「出力制御」が生じるためです。
温暖化ガスの排出量削減目標の達成が遠のきかねません。
解決には消費量の多い都市部に電力を送る送電線増強が不可欠ですが、増強計画の多くが策定段階にとどまっています。
電力の供給過多で出力抑制が行われ、発電の4割超が無駄に
地域内の電力需給が一致しないと停電する危険があります。
太陽光発電の導入が進んだ九州では、電力需要が少ない春や秋にすでに出力制御が生じています。
再生エネの導入が増えると出力制御も広がる恐れがあります。
本来の能力より発電量が少なくなるため、制御した分は無駄になります。
10社の30年ごろの1年間の再生エネ発電量に占める抑制量を試算し、出力制御率として示しました。
北海道は49・3%、東北は41・6%、九州は34%、中国は28・6%でした。
再生エネが導入しやすく、東京や大阪ほど電力需要のない地域で抑制が起きやすいです。
東京、中部、北陸、関西、四国、沖縄は10%未満ですが、いずれも出力制御は生じます。
出力制御とは?
出力制御とは、電力供給が需要を上回らないように発電を抑えることです。
太陽光の導入が進むと昼間の電力供給量が増えます。
電力会社は水力発電の水を昼間にくみ上げたり、火力発電の出力を引き下げたりして調整します。
それでも需給バランスが保てない場合に太陽光と風力の出力を抑えることになります。
経産省によると、出力を抑えるとすぐ元に戻せない原子力や地熱は需給調整に使えません。
供給側だけでなく、電気を使う企業や家庭が再生エネが余る時間帯に電気を消費する対策も欠かせません。
再生エネによる発電量の割合を全体の36~38%まで高めることをめざす
政府は30年度までに温暖化ガスの排出量を13年度比で46%以上削減し、50年までに実質ゼロにする目標を掲げています。
30年度には再生エネによる発電量の割合を全体の36~38%まで高めることをめざします。
20年度の19・8%から倍近い水準です。
試算では従来より1・5倍のペースで再生エネの発電能力が増えると想定しています。
政府が掲げる30年度時点の再生エネ発電量目標に相当する水準とみられます。
ただ出力制御が起きれば能力を十分生かせず、実際の発電量は減る。排出量削減目標の達成が難しくなり、発電事業者の収益悪化を招きます。
出力制御を減らす3つの対策
経産省は出力制御を減らす対策として、下記の3つを掲げています。
- 蓄電池で太陽光による発電量が多い時間帯に充電
- 火力発電所の出力を抑制
- 送電網を強化し、北海道や九州の再生エネ電気を東京や大阪に送電
各電力会社の試算で、特に効果が大きかったのは送電網の増強です。
地域間を結ぶ送電線「地域間連系線」のうち主要なルートが拡充される前提なら、北海道の出力制御率はほぼゼロにできます。
東北では8・4~0・6%、九州では22~12%まで下がります。
次いで火力発電の出力抑制も効果がありました。
電力会社は現在、再生エネの出力制御時に火力発電の出力を30~50%に抑えています。
経産省はさらに20~30%まで引き下げることを検討しています。
20%まで下げると再生エネの出力制御率は北海道で11ポイント、東北で18・7ポイント、中国で15・4ポイント低下します。
蓄電池は各地の最低需要の10%分を整備したと見込んでいます。
中国で11・2ポイント、九州で6ポイント改善できる見通しです。
出力の変動が大きい太陽光発電が多いエリアで効果が大きいです。
送電網の増強を巡っては、経産省と電力広域的運営推進機関(広域機関)が整備計画を検討しています。
広域機関が21年にまとめた中間案では連系線の容量を全国で1600万キロワット以上増強し、現行の1・7倍以上にするには最大4・8兆円の投資が必要になります。
整備が順調に進まなければ、再生エネの無駄を減らせません。
優先して整備を進める連系線の増強計画も策定段階です。
経産省は北海道から関東へ電気を直接送る海底ケーブルを新たに整備するための計画づくりを急ぎます。
1兆円を超す大規模事業で、30年度までの運用開始をめざしています。
ルート選定に加え、初期投資から費用回収が始まるまで数年かかることも見越してどのように資金支援するかも宿題のままです。
九州から中国への連系線の増強なども含め、22年度中に計画をまとめます。
送電網の増強は出力制御の防止だけでなく、電力供給が不足した際の他地域からの融通にも効果があります。
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