物価上昇の波がついに国内の家賃にも波及し始めました。
消費者物価指数(CPI)で賃貸住宅の家賃を示す指数は2023年に前年比0.1%上昇し、25年ぶりのプラスとなりました。
原因は都市部などで賃上げや資材高騰で住宅の維持費用が増加しているからです。
新規賃貸契約だけでなく、契約更新時に家主が値上げを要請し、借り主も受け入れるケースが増えている。
詳しく解説していきます。
契約更新時に家主が値上げを要請
約2万5000戸の賃貸物件を管理する会社は、既存の入居者に対して契約更新時に賃料の5~7%ほどの値上げを申し入れ始めています。
単身者向けの住戸を数多く手がけるレオパレス21では、全国平均で賃料が1000円程度上がっています。
面積の広い住戸は物件価格が上がっているので賃料も上昇傾向にあり、契約更新を機に引き上げている会社が多いです。
都心を中心に募集賃料は上昇しており引き上げが受け入れられやすい環境です。
マンション購入に二の足を踏む層が賃貸に流入
2023年の首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の新築マンションの平均価格は前年比28.8%上昇の8101万円で、過去最高値を更新しています。
資材価格や土地の上昇もあり、過去5年で35%上昇しています。
マンション購入に二の足を踏む層が賃貸に流入し、賃貸価格を押し上げています。
住宅の維持コストが上がり、家賃にも上昇圧力
CPIで一般的な賃貸住宅の家賃を示す「民営家賃」は、1998年に前年比0.5%上昇して以降は下落が続いていました。
そのため、家賃は「上がらないもの」とされていました。
2019年以降は横ばいの年もありましたが、2023年にプラスに転じました。
月次でみると、2024年1~2月には2カ月連続で前年同月比0.2%上昇しました。
2月の「生鮮食品を除く総合」(2.8%)を大きく下回りますが、伸び率は00年2月(0.2%)以来の水準となっています。
3月の東京都区部では0.4%上昇しました。
その原因は人件費や資材の高騰です。
CPIで修繕材料や水道工事費が含まれる「設備修繕・維持」は2023年に前年比6.5%上昇し、1980年(12.7%)以来の高い伸び率となりました。
モノとサービス両輪の値上げで住宅の維持コストが上がり、家賃にも上昇圧力がかかってきたとみられています。
日本は家賃を上げにくい
米国の家賃はCPIベースで2月も前年同月比5%台と、日本と比べて大幅に高い伸びです。
賃貸契約賃料が物価と連動する仕組みが多いためで、契約更新などのタイミングで家賃が上がるのが一般的です。
一方、日本では賃貸住宅の入居者は借地借家法によって保護されており、契約更新時の値上げは借り手と交渉して合意のうえで決まる場合が多いです。
特にデフレ下では、賃貸住宅の貸し手は入居者が入れ替わる新規募集のタイミング以外は家賃を上げにくい状況が続いていました。
既存の居住者に対しても更新時に増額を打診する例が増えている
しかし、ここに来て変化が生じています。
新規募集の賃料が上がり、(既存居住者の)更新賃料に乖離(かいり)が生じていおり、既存の居住者に対しても更新時に増額を打診する例が増えています。
東京23区の分譲マンションを新規に賃貸する際の募集家賃は2月に前年同月比6.2%上昇しました。
このような状況を受け、貸し手が既存居住者との更新契約時に新規契約との家賃の差を縮める動きを強めています。
値上げを受け入れる入居者も増え、交渉の機運が高まっています。
更新賃料は緩やかに上がり始めている
実際、更新賃料は緩やかに上がり始めています。
国内の賃貸住宅に特化した不動産投資信託(REIT)のアドバンス・レジデンス投資法人の公表資料によると、2023年8月~24年1月に更新対象の物件の約5割に賃料の引き上げを打診し、そのうち約66%の借り手が容認しています。
結果として更新物件の賃料総額は更新前と比べ1.2%上昇しました。
家賃が2%物価安定目標の下支えとなりうる
物価を長らく押し下げてきた家賃が賃金や物価情勢に応じて上がり始めれば、CPI全体を押し上げ、政府・日銀が掲げる2%物価安定目標の下支えとなりえます。
足元の家賃上昇はインフレ基調の重要な変化を示している可能性があります。
新年度に入ってからも持続して上昇するかが焦点です。
日銀は3月にマイナス金利政策を解除しました。
今後の追加利上げ次第では、変動型の住宅ローン金利の上昇を通じて、住宅保有コストが増加し、賃貸住宅の家賃にもさらに上昇圧力がかかる可能性があります。