韓国の半導体素材や製造装置の国産化が足踏みしています。
2019年7月に日本政府が韓国への輸出手続きを一部品目で厳格化して以降、韓国は関連品目の国産化を進めてきました。
ただ、足元では日本からの輸入額が増加に転じるなど揺り戻しが見られます。
日本の措置からまもなく3年になりますが、日韓の半導体関連の供給網はなお命脈を保っています。
韓国は半導体関連素材3品目の国産化を進めてきた
2022年5月9日の大統領任期最終日。
文在寅(ムン・ジェイン)前大統領は最後の演説でこう述べた。「日本の不当な輸出規制による危機を、全国民が団結し克服したことが忘れられません」。
任期を総括した10分ほどの退任演説で早々にあらわにしたのは、日本の措置への反発でした。
19年7月に当時の安倍政権は「両国間の信頼関係が著しく損なわれた」として、軍事転用リスクのある素材を韓国に輸出する際の優遇策を見直しました。
半導体生産に不可欠な「フッ化水素」や「EUV用フォトレジスト(感光剤)」、有機ELパネルの保護部材に使う「フッ化ポリイミド」の3品目で輸出案件ごとに個別審査を求めるとしました。
経済産業省は「本来必要な手続きを実施するだけ」と説明しています。
一方の韓国政府は18年10月に韓国最高裁が日本企業への賠償を命じた元徴用工判決を念頭に「経済報復だ」と激しく反発。
韓国では日本製品の不買運動にまで発展し、日韓関係は戦後最悪といわれるほどに悪化しました。
韓国の「脱日本」は進んでいない
文氏は率先して国内の半導体部材メーカーの拠点を訪問し、国産化の推進を鼓舞してきた。年間2兆ウォン(約2100億円)規模の研究開発支援の予算を投じ、「危機を機会に変えた」と成果を誇ってみせました。
しかし、韓国貿易協会の統計を見る限り、文政権が主張するほどに「脱日本」は進んでいません。
日本が輸出手続きを厳格化した半導体関連素材3品目のうち、フッ化水素の対日輸入額は19年7月を境に急減し、20年は18年比で86%減となりました。
それでも21年は前年比で34%増と反発し、22年1~4月も前年同期比で30%増と回復傾向が続いています。
残りの2品目でも、フォトレジストは前年比で2ケタの伸びが続き、フッ化ポリイミドは微減にとどまっています。
日系材料メーカーの関係者は「フッ化水素を除けば、特段の影響はなかった」と声をそろえます。
対日貿易赤字も拡大傾向が続く
さらに韓国が日本から輸入する品目で金額が最も大きい半導体製造装置の21年輸入額は前年比44%増の63億ドル(約8500億円)となり、全品目での対日貿易赤字も拡大傾向が続いています。
IBK投資証券で素材業界を担当する李建宰(イ・ゴンジェ)アナリストは「代替材料を導入するためには半導体の生産ラインを止める必要があり、メーカー側も国産品の追加導入には慎重」とみています。
国産化の足踏みは、韓国企業の株価にも反映されています。
フッ化水素の国産化で知名度を高めたソウルブレーンは19年7月以降に株価が急騰し、持ち株会社株は一時7万ウォンを付けました。
しかし直近で2万ウォンを割り込み、6年ぶりの安値圏に沈んでいます。
長期的に韓国企業による国産化が進めば日本企業が影響を受ける
一方で、日本政府の措置が韓国企業に無用な不信感を生んだのも事実です。
半導体大手のサムスン電子やSKハイニックスは工場停止のリスクを痛感し、結果的に日本製の部材を代替できるサプライヤーを育成するための資金支援や技術供与につながりました。
サムスンの半導体とディスプレーの年間売上高は計13兆円で、日本最大のキオクシアホールディングスの8倍の規模を持ちます。
多くの日系サプライヤーにとってサムスンは有力顧客であるため、長期的に韓国企業による国産化が進めば日本企業が影響を受けます。
政権交代後の韓国の方針
今後の焦点は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の出方です。
16日に発表した経済政策方針では、「脱日本」「国産化」といった文言は盛り込まれませんでした。
対日関係改善を掲げる尹政権が日本を刺激する文言を控えた可能性があります。
しかし、前政権の手厚い支援で動き始めた半導体関連の素材や装置の国産化をあえて中断する理由もありません。
尹政権内では「経済安保の観点からも部材国産化は必要」との声も聞かれます。
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