不動産を活用した「節税ビジネス」の現場で取引を手控える姿勢が強まっています。
半年前の最高裁判決をきっかけに、従来の相続税の節税策が税務当局に認められない可能性が意識されるようになったためです。
金融機関などの後押しにより広がってきましたが、ブレーキがかかるかもしれません。
詳しく解説していきます。
最高裁「相続した賃貸マンションを使った節税は違法」
最高裁で争われたのは、相続した賃貸マンションの評価額が実勢価格より低すぎるとして国税当局が再評価し、追徴課税したケースです。
相続人側は評価手法は通常の方法などとして提訴しましたが、最高裁は税務当局の主張を認める判断をしました。
判決は金融機関や税理士らを驚かせました。
相続税の申告の中身が「不動産を使った節税策として通常の手法」だったからです。
最高裁のケースで節税効果が大きかったのが相続時の不動産の評価ルールです。
相続税は基本的に亡くなった人(被相続人)の財産の価値に応じてかかります。
土地の評価には通常、路線価を用いることになります。
路線価は時価の8割が目安で、現金を相続するより不動産を購入した方が相続税を抑えやすいのです。
賃貸用物件なら所有者が自由に使えない分も価値を減らせるため、さらに評価が下がります。
最高裁の事例は約13億8000万円で購入したマンション2棟の評価が申告時3億3000万円でした。
最高裁「多額の借金をして不動産を購入する節税対策も違法」
もう一つの節税策が借入金の活用です。
通常は借金をしても相続する財産の価値に変化はありません。
しかし、多額の借金をして不動産を購入した場合は異なります。
不動産の評価額が購入価格を大きく下回ると、相続財産を評価する際に財産から借金の分を差し引く「債務控除」の効果が高まります。
相続人側はこれらの効果で相続財産の価値を下げ、相続税をゼロとしました。
多額の借金で不動産を購入する富裕層向けの節税策は、金融機関などが積極的に後押しした面があります。
銀行は低リスクで多額の融資ができ、不動産業者や節税効果を試算する税理士も潤います。
しかし、最高裁判決以降「(相続税対策の融資は)慎重にならざるを得ない」と地方銀行のリテール部門担当者は漏らしています。
裁判では融資した銀行の稟議(りんぎ)書が証拠として採用されました。
融資先が後から追徴課税される事態になれば顧客の信頼を失いかねません。
具体的な基準は不透明
手控えムードは税理士にも及んでいます。
都内で相続税を専門に扱う税理士は顧客に「相続税がゼロになるような極端な節税策は避けるよう助言している」と打ち明けます。
今回の最高裁判決では「不動産を使った従来の節税策は違法ではないが、全体として不適当とされました」
富裕層にしかできない多額の融資を受け、明らかに相続税の節税を狙ったことを問題視したとみられています。
辻・本郷税理士法人は「追徴課税となる具体的な基準が不透明なことが困る」と話しています。
国税庁は7月、全国の税務署に送付した「事務運営指針」と呼ばれる文書で最高裁判決の概要に言及しました。
しかし、具体的な基準は示していません。
基準が不透明な限り税理士は保守的に助言せざるを得ません。
判決によって不動産価格が下落する可能性がある
とある税理士は、一連の流れが「バブル経済崩壊前に重なる」と指摘しています。
1980年代後半も節税目的の取引が拡大。
地価高騰の要因と見た政府は「相続開始の前の3年以内に取得した土地の評価は取得価格による」といった法改正に動いた(現在は廃止)過去があります。
その後の利上げや不動産向け融資規制もあり、不動産価格は下落に転じました。
国土交通省の不動産価格指数でみると、今年6月のマンションの価格は2010年に比べ約8割高いです。
相続税対策の取引はあくまでその一部ですが「取引を手控える状況が続けば、不動産市況全体に影響する可能性はある」と中央大学の教授は話しています。
まとめ
不動産を活用した「節税ビジネス」の現場で取引を手控える姿勢が強まっています。
半年前の最高裁判決をきっかけに、従来の相続税の節税策が税務当局に認められない可能性が意識されるようになったためです。
最高裁で争われたのは、相続した賃貸マンションの評価額が実勢価格より低すぎるとして国税当局が再評価し、追徴課税したケースです。
相続人側は評価手法は通常の方法などとして提訴しましたが、最高裁は税務当局の主張を認める判断をしました。
もう一つの節税策が借入金の活用です。
通常は借金をしても相続する財産の価値に変化はありません。
しかし、多額の借金をして不動産を購入した場合は異なります。
不動産の評価額が購入価格を大きく下回ると、相続財産を評価する際に財産から借金の分を差し引く「債務控除」の効果が高まります。
判決によって不動産価格が下落する可能性があります。
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